基準値を超えなければ発症も発作も起きない

── 忙しいときでも続けられる対策が、大切なのですね。

 

髙岡先生:
ダニは目に見えないだけで、多くの場所に存在します。一般家庭の室内にあるものを例に挙げると、ハウスダストのようなちりやほこり、寝具類やソファー、クッション、衣類などをはじめとする繊維などが重要な発生源となります。

 

また、粉物などの食品によって繁殖してしまうこともあります。たとえば、使いかけの粉類のなかに侵入したダニが繁殖し、その粉で調理した料理を食べてアレルギー症状を起こす「パンケーキ症候群」もダニアレルギーの一種。

 

日常生活をおくるうえで、ほこりやゴミはどうしても出ますし、寝具や服なども必要です。すべてを排除することも、汚れないようにすることも、現実的ではないですよね。

 

── そうした「排除しきれない」条件下で、どうすればいいのでしょうか?

 

髙岡先生:
基本的にアレルギーは原因物質が少しでもあると発症したり、発作が起きたりするものではありません。一定の基準値を超える量がなければ、アレルギーは発症しません。そのためアレルゲン量を少なくすれば、アレルギー症状を抑え、改善することができます。

 

専門的な説明をすると、アレルギー症状が出るダニアレルゲンの基準値はゴミ1gあたり2μg(マイクログラム 1μgは1mgの1000分の1)以上、ダニに関連する物質が含まれる状態。その5倍の10μg以上含有していると、発症を起こす基準値といわれています。

 

わかりやすく症状の出る基準値を1平方メートルあたりのダニの数で表すと、約100匹。いずれにせよ専門家や専門機関でないと調査できませんし、「一定以上、増えないようにする」のがポイントです。

 

ダニが増えると、アレルゲンも増えてしまいます。ダニが好み、増殖する環境を理解して、増やさない対策を継続する環境改善が効果的です。

 

基本的な対策としては、ダニのエサとなるハウスダストを掃除し、食品の保存管理をすること。ダニの好む温度や湿度、特に湿度を調整する炭など吸放湿素材のアイテムを取り入れて、ダニが増えにくい環境にすることをおすすめします。

 

布製ソファーに寄りかかる子ども

── ダニが増えにくい環境に整えることで、症状が改善した例を教えてください。

 

髙岡先生:
アトピー性皮膚炎が重症化していた女性は、床の素材を変え、寝具も防ダニ布団にするなどの大幅な環境改善を図ったところ、1年で驚くほど症状が改善しました。

 

小さい女の子のケースでは、布製のソファーで跳ねたり、踊ったりした後に発作が起きることから、ソファーのダニの数を調査したところ、多くのダニが検出されました。その後、ソファーを処分することで症状が改善できました。

 

これらは専門医とともに調査し、改善のための指導を実施した例です。アレルギーの原因が患者の検査でわかっていて、ダニが増えやすい環境を正しく理解できれば、一般のご家庭でも「こういうときに症状が出るから、原因は…」と、ひとつずつ改善していけると思います。

 

髙岡正敏先生
「正しく理解することが、ダニ対策やアレルギー症状改善には必要不可欠」と語る髙岡先生

 

PROFILE   髙岡正敏先生

医学博士、獣医師。埼玉県衛生研究所環境衛生部技術吏員などを歴任。50年以上のダニ研究を基に、アレルギー症状軽減のための調査・指導を行っている。著書に『お父さん、お母さんが知っておきたいダニとアレルギーの話』(あさ出版)ほか。

取材・文/鍬田美穂 写真提供・撮影/八木実枝子