パパはどうコミットする?
── 最近は子育てをフェアに分担する夫婦も増えていますが、療育の現場などを見るとまだまだ母親が多い印象です。父親と母親の子育てにおける役割分担について、森中先生はどう思われますか。
森中さん:
療育の現場に限らず、子育て分担の形は各家庭さまざまですよね。ただ、私個人の意見としては、父親と母親がまったく同じ役割を果たす必要はないと思っています。
ですから具体的にどう分担するかよりも、世のお父さんたちには「妻とは違う、自分だからできる役割は何だろう?」という視点を持って子どもに接してみてください、とお伝えしたいですね。
たとえば、一般的な傾向として母親はどうしても子どもと自分を同一視してしまいがちです。対して、子どもと“一体”になった経験がない父親は、もう少し離れた位置からわが子を見ている場合が多い。
それならば、お父さんがすべきことは母子を「切り離す」ことだと私は思っています。可能ならば、どんどん父と子だけでお出かけをしたり、父と子の時間をつくったりして親子のコミュニケーションを取ってください。
そうした時間が増えるほど、母親も子どもから離れて自分を見つめ直すことができますし、子どもの自立心も促されます。
お父さんに関していえば、「自分の部下に使わない言葉は、妻にも子どもにも使わない」を心がけてほしいなと感じますね。
これは男女逆でも同じかもしれませんが、適切な距離がある他人相手であれば言わないような乱暴なことを、自分の家族になら平気で言って傷つけてしまう人がいます。父親が母親をぞんざいに扱えば、それを見る子どもはツラいし、父親が子どもをぞんざいに扱えば母親はツラいんです。
発達障害の子に限らず育児は大変で、母親は孤独を抱えてしまいがち。夫婦の真ん中に子どもを置いて考えることも大事ですが、子どもが不在であっても1対1で丁寧にコミュニケーションを取る。そうした保護者の態度が子どもにもいい影響を及ぼすと思っています。
家族にこそ「ごめん」「ありがとう」を
── 森中さんご自身が、親として子どもに接するときに意識していることはありますか。
森中さん:
「ありがとう」と「ごめんなさい」をきちんと伝えることをいちばん大切にしています。
恥ずかしいのか決まりが悪いのか、わが子相手だと「ごめんね」が言えない親って意外と多いんですよ。子育てには自身の成育歴が現れますから、もしかしたらそういう人は、自分の親御さんの影響もあるかもしれません。
でも、「ありがとう」「ごめんなさい」はいちばん近くにいる家族にこそこまめに伝えないと。
ドアを閉めてくれたら「ありがとう」、買い物袋を持ってくれたら「ありがとう」、勘違いで子どもを怒ってしまったときは「ごめんね」。そんなふうに、日常生活のなかでその都度、言葉で伝えることを心がけてみてください。
子どもだってそう言われると嬉しいし、きちんと認められている気分になりますよね。そうした些細なところから家族としてのコミュニケーションの力も育っていく気がします。
PROFILE 森中博子さん
小児科専門医。小4、小1の兄弟を育てる母。長男が5歳のときにADHDと診断されたことをきっかけに、発達障害・グレーゾーンの子育てに悩む保護者をサポートする発達科学コミュニケーショントレーナーとして活動を開始。親子の未来を創る発達診断「ママカルテ」主宰。熊本県在住。
取材・文/阿部花恵