ADHDの小4長男と、グレーゾーンかもしれない小1次男を育てる小児科医の森中博子さん。当事者になって、安易な投薬治療やコミュニケーション不足といった医療者側の課題に気づいたと言います。発達障害の子を育てる保護者が知っておきたい医療との向き合い方、家族のコミュニケーションの重要性について聞きました。

投薬だけでは何も変わらない

── 発達障害の子を育てる親であり、小児科医でもある森中先生から見て、発達障害の子どもをサポートする医療者に「こんなところを変えてほしい」という提案はありますか。


森中さん: 
当事者としても、友人・知人の話を聞くにつけても、医療者側の配慮が欠けている場面は少なくないと感じています。

 

たとえば、うちの長男がADHDの診断を受けたときの先生の第一声は「ADHDでいいんじゃないですかね〜」というぞんざいな言い方でした。こちらとしてはすごく悩んで受けた診断にも関わらず。

 

ADHD診断を受けた当時の長男

発達障害の方に対して医療ができることは「診断」と「投薬」、この2つしかありません。だから「診断したよ、投薬しますね、じゃあ療育行って」とポンポン次に進めてしまう医師もいます。

 

でも保護者にしてみれば、事実を受け止めて、消化する時間が絶対に必要。そこを無視すれば両者にひずみが生じます。医療現場の仕組み的に難しいかもしれませんが、医療者はそのことを意識すべきだと思います。

 

── 発達障害の子どもの投薬治療について、森中先生はどう思われますか。

 

森中さん: 
前提として投薬治療は、ADHDによって引き起こされる心身の不調などの二次障害を引き起こさないために行うものだと思っています。これはおそらくほとんどの医療者が同じ見解ではないでしょうか。

 

じゃあ、ただお薬を毎日飲めばいいかというと、そうとも言いきれません。環境調整、つまりその子を取り巻く学校や周囲の状況を何も変えることなく、薬だけを飲み続けても何も変わらないんですよ。むしろ、副作用だけが目立ってしまうマイナスの作用もある。

 

私としてはADHDの子どもに投薬治療をするのであれば、「どの症状をよくするために飲むのか」という短期目標を医療者と保護者が事前にしっかり話し合うべきだと思っています。

 

投薬治療をするのであれば、医療者と保護者は事前にしっかり話し合うべき

そうでないと、どんどん薬だけが増えていくことにもなりかねません。

 

薬を使わなくても、周囲の工夫や理解によって解決できることもたくさんありますから。

 

── 医療者と保護者がしっかり話し合うことも大事なんですね。とはいえ、質問がしづらい雰囲気の方も少なくありません…。

 

森中さん: 
確かにそういった雰囲気の方もいますよね。ただ、子どもの症状に向き合う保護者に寄り添うこともまた、医療者としての大切な仕事の一部だと私は思っています。そこは医療者側が反省して変わっていくべき。

 

保護者の側も診察の場でモヤモヤすることがあれば、なるべくその場で聞いてみてください。医師に聞きづらいのであれば、「実はさっき先生に聞きづらかったんですが」と看護師さんに質問してもいい。

 

それでも難しいようであれば、コミュニケーションが取りやすい医療機関に変えることをおすすめします。