子どものおかげでゲストと距離が縮まることも

── 一緒に育ててくれる人の輪は、子育て中にだんだん広がっていったのでしょうか?

 

坂本さん:
私も夫も、実家が遠くて、親に頼るという選択肢が最初からなかった時点で、シッターさんをお願いしようと思っていました。ただ「みんなと一緒に育ててもらおう」という人の輪は、だんだんと広がっていったと思います。

 

出産前は、赤ちゃんが一緒だと行動半径が狭くなるかな…と思っていたのですけれど、案外そうでもないな、いうことがだんだんわかってきて。

 

だから、環境が許す限りいろんな場所に連れて行ったし、ライブ現場にも連れて行って、私の信頼する人たちに、子どもと会ってもらっていました。

 

あとは、「ディア・フレンズ」の歴代スタッフの皆さんには、本当に協力していただいています。私は2011年から番組のMCを担当していますが、子どもの成長過程とともに「ディア・フレンズ」はずっと続いてきているんです。

 

それこそ、抱っこのときから、ハイハイして、つかまり立ちして、歩いて…という成長過程を、すべてスタッフさんたちが見てくれていて。

 

赤ちゃんのころは、スタジオにヨガマットを持ち込んで、そこでゴロゴロさせてもらって、私もそこに座りながら授乳したり。そういう成長過程に応じた対応をしていただけて、ありがたかったです。

 

そこにゲストの方が入ってきて、赤ちゃんがいてびっくりする、みたいなこともありました。授乳しながら「あ、どうもこんにちは~」みたいな(笑)。「あ、もうすぐ終わりますんで!」って。

 

マイクに向かう姿は、お母さんの面影を感じます

── あまり授乳をコソコソしたくない、という思いもあったそうですね。

 

坂本さん:
そうですね。なにか1枚、隠せるものをすっぽりと被って、その中で授乳してましたね。

 

── そんな坂本さんを見たゲストの方のリアクションはどうだったんでしょうか?

 

坂本さん:
「見ちゃいけない」みたいな、ドギマギする方も多かったですけど。

 

でも、そこから普段家庭のことをあんまりおっしゃらない、私生活を見せないゲストの方でも、オフトークの部分で親の顔を見せてくださったり、「実はうちにも娘がいてね」とか、お子さんの話をしてくださったり。

 

娘が話のきっかけになって、急に距離が縮まることもよくありました。

 

たくさんの大人にも見守られながら、「なまこちゃん」はすくすく育っています

── エッセイで紹介されているエピソードで、象徴的だなと思うものがあります。坂本さんがコンサートで外出する際、娘さんに「寂しい?」と聞いたら「寂しくない。パパもいるし、みかちゃん(シッターさん)もいる」と答えたとき、坂本さんは「良かったな」と感じた、と。まわりの人に育てられることを、坂本さんご自身が肯定しているんだな、と感じました。

 

坂本さん:
そうですね。周りの人たちとの信頼関係のおかげで、安心して仕事に戻ることができました。娘も家族のような仲間と楽しく過ごしてくれていて、嬉しいですね。

 

PROFILE 坂本美雨さん

ミュージシャン。1980年生まれ。1997年父・坂本龍一プロデュースの元「Sister M」名義で歌手デビュー。音楽活動にとどまらず、ナレーション、執筆、演劇など活動の幅を広げる。2015年に長女を出産。

 

取材・文/市岡ひかり 写真提供/坂本美雨