夫は「稼ぐ人間が偉い」価値観を一変することができた

妻はもともと美容師で、仕事を辞めてからも美容関係の勉強を熱心にしていました。さらに鍼灸師としての国家資格、カウンセラーの民間資格も取得していたそうです。

 

「“女性の美容と健康を考えるサロンを開きたかった”、と。当初は子どもたちがもっと大きくなってからと考えていたけど、閉店したサロンを居抜きで借りられる状況で始めることにしたそうです。

 

初期費用は父親が生前贈与してくれたお金をつかったそうです。男などいなかった…」

 

両親も応援してくれたと妻は言いました。関心をもってくれなかったのはあなただけ、とも。

 

「だったらもっと正直に話してくれよと言ったら、『あなたはいきなりお金の話をした。自分の収入をそんなところで使うなと言わんばかりで、私は絶望的な気持ちになった』と。

 

男がいるんじゃないかと疑惑を持っていたことも、妻は勘づいていました。『私たちの関係って、脆いんだなと思ったわよ』と言われて、僕は崩れ落ちましたね」

 

その裏には“自分が養っている驕りがあった”と、ケイイチさんは素直に認めています。

 

妻に起業などできるはずがない、と思い込んでいたのも確かだそう。考えてみれば、妻はもともと意志が強く、自分が決めたことは通す性格でした。

 

「勉強を続けていることも、僕に話してもバカにされるかもしれない、“夢みたいなことを言うな”、“どこから金が出るんだ”、と言われるかもしれないと思っていたそうです。それも当たっている」

 

ケイイチさんは自分でも意識していなかったけれど、心のどこかで「家族を養っているのだから、自分がいちばんエライ」という気持ちがあったのではないか、と反省していると言います。

 

「あれから妻との関係が変わりました。いまでは妻の仕事の話もよく聞くようになり、僕自身もビジネスとは何かを深く考えることにつながっています。

 

ちょっとした時間で自分から家事をやるようにもなりましたよ」

 

いまのうちに気づいてよかった、妻の底力に敬意を抱いているとケイイチさんは素直に話してくれました。

 

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里