1884年創業も「代々受け継ぐケーキはない」訳

── 神田近江屋洋菓子店は、昔ながらのケーキも人気がありますね。

 

吉田さん:
「苺サンドショート」と「アップルパイ」「フルーツポンチ」が特にご好評いただいております。

 

弊社には代々受け継がれているケーキってあまりないんです。時とともにお客さまのケーキの好みも変わるので柔軟に対応しています。

 

お客さまが神田近江屋洋菓子店に求めていないような新しいものを作る必要はないということは重々承知しておりますが、ずっと同じことをやっていては時代に取り残されてしまいます。

 

たとえば、僕がスペイン滞在中に出合ったマルコナ州のアーモンドプードルをフィナンシェに使うなど、お客さまが求めてくださるもののなかに、自分がやりたいことを取り入れて「不自由のなかの自由」を楽しんでいます。

 

レトロモダンな雰囲気の神田近江屋洋菓子店
レトロモダンな雰囲気の神田近江屋洋菓子店

── 吉田さんの代では、どのようなお店を目指したいとお考えですか。

 

吉田さん:
僕は、この仕事は「笑顔にいちばん近い仕事」だと思っているんです。

 

ケーキを買いに来てくださるお客さまは、9割9分がケーキが好きな方ですよね。だから自然と笑顔になってくださいます。悲しいときやつらいときでも、ケーキを食べたら少しは笑顔になってもらえるかもしれない。

 

コロナ禍でも、旅行や外食ができないストレスを緩和することができているのかなと思うと、やりがいを感じます。

 

だからこそ、作り手も幸せじゃないといけないと思っています。

 

昔なら、無理をして朝から晩まで働くのがあたりまえだったかもしれませんが、時代に合わせて働き方も変えていかないといけない。

 

とはいえ、製造が追いつかなくてせっかく来てくださるお客さまが買えなくなってしまっては本末転倒です。

 

材料に妥協はしません。けれど値段を上げてお客さまの生活を圧迫することもしたくない。常に方法を模索しています。

 

お客さまも、従業員も、もちろん僕自身も、幸せになれる方法を追及していきたいですね。

 

PROFILE 吉田由史明さん

神田近江屋洋菓子店5代目店主。27歳で店を継ぎ、伝統を守りつつSNSでの発信や他業種とのコラボなど、新たな試みが注目されている。


取材・文/林優子 写真提供/神田近江屋洋菓子店