仕事としての役割を終えた文具は、趣味の世界へ
── これからの文具はどうなっていくのでしょうか。
高畑さん:
ここ10年近く、文具の歴史を文献やコレクションを通じて辿ったりまとめたりする作業をライフワークとして続けています。
そんななかでハッキリと見えてくるのは、人類が文字を記し始めてから5000年以上続いてきた、いわゆるアナログな文具の歴史は、急激なデジタルツールの普及によって、「記録・伝達・効率的な情報の収集」と活用という本来の役割では、
僕は政治や戦争で語られる世界史にはまったく興味が持てなかったのですが、道具の発明やテクノロジーの進歩を長いスパンで追いかけるのはすごくおもしろい。
たとえば、ヨーロッパではかつてそろばんが使われていましたが、インドで発明されたアラビア数字と中国で発明された紙がヨーロッパに伝わることで廃れてしまいました。
ローマ数字は非常に計算がしにくいのでそろばんが必要だったのですが、アラビア数字と紙によって、筆算が可能になり、そろばんを使うより手書きの筆算のほうが速いという時代が来てしまうんです。
なんだか逆行しているみたいな現象ですが、経緯を理解するとすごくおもしろい。
デジタルの登場によってアナログな文具は効率的に仕事をこなす道具としての役割を終えました。今は、定年後の余生を楽しんでいる感じですね…。
中学生の頃の僕は、まさか文具が必要なくなる時代が来るなんて、想像もしていませんでした。
でも、仕事がなくなったからといって存在意義がなくなったわけではありません。
効率ではデジタルにかなわないけれど、新しいものを創造したり人生を楽しんだりするという役割では、文具にはデジタルツールよりも良い面もあります。
たとえば今、ガラスペンとインクが売れているのですが、必要かと言われたら必要ないですよね、不便だし。
でも、あえてめんどくさい文具を楽しむのがすてき、と感じる人も増えているんです。
連絡ならメールでできるけれど、直筆の手紙だからこそ伝わるものがある、という感覚は、皆さんにもなんとなく共感してもらえるんじゃないでしょうか、