潜在保育士を呼び戻すために

共働き家庭の増加で保育園の需要が高まるなか、保育士は常に人材不足と言われています。いっぽうで、資格はあるものの保育士として働いていない「潜在保育士」の多さに野上さんは注目しています。

 

「保育士資格を持つ方のうち、3分の2が潜在保育士と言われています。保育士を目指して、保育の学科に入る方は、一般企業への就職を志すよりも早い段階で強い意志を持って進路を決めているのに、就職先を諦めざるを得ないとか、離脱してしまう悲しさは業界の課題だと思っています。

 

休憩時間の保育士の様子。明るいカフェのような部屋を休憩スペースとして使っている

理想と現実との違いで、実習で打ちのめされてしまう学生もいますし、結婚や出産で仕事を離れる方もいらっしゃいます。子育てを経験して、キャリアアップができる仕事ですので、自分の子育てがあるから辞めてしまうのでは保育士全体のスキルアップにつながらないと思います。

 

実際に資格を持っている方はたくさんいますし、資格の失効もないので、もっと魅力のある業界にして、多くの方に戻ってきてほしいと思います。

 

私にも、上が中学生、下は小学4年生の子どもがいますが、子育てをすることで、子どもの成長を見ながら、世の中に必要なことについても肌で感じることができました。その視点は経営にも重要だと思っています」

 

野上さんは、子育てと仕事を両立させている保育士が安心して働けるよう、災害時にお子さんがいる保育士が優先的に帰れる制度もつくりました。

 

「園長先生になりたくないという意見が聞かれたのですが、それは災害時に現場を守らねばならないので、自分の子どもを犠牲にしてまではお受けできないという理由でした。

 

そういう組織であってはならないと思いましたので、まだ発動はしていないのですが、3.11のあとにお子さんを持つ方から優先的に帰れる制度をつくりました。それに、普段から風通しの良い組織であれば有事の際も大丈夫だと思っています」

 

野上さんは、これから成し遂げたいことについてこう話します。

 

「子どもたちが日本の未来をつくっていくので、保育士の仕事は人間の本質的にも、とてもやりがいがあると思っています。

 

お子さまの発達の面で不安を抱くご家庭が増えているということもありますので、これからは発達のサポートにも力を入れていきたいです。保育園に通いながら、集団生活のなかで気になるところがあれば支援室に行って、課題をどう解決していくかに向き合う。

 

発達の凹凸があるお子さまの素晴らしい面はどんどん伸ばしていって、課題は一緒に乗り越えていくことで、豊かな人生を過ごすためのお手伝いができたらと思います」

 

PROFILE 野上美希さん

シンクタンク勤務後、人材企業にて女性のための人材紹介サービスの代表を務める。自身の妊娠を機に幼稚園の運営に携わり、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。現在、国基準の2 倍以上の保育士確保を実現し、保育者の働き方改革を実践している。

取材・文/内橋明日香 撮影/北原千恵美