人手不足が深刻な課題となっている保育士ですが、東京・杉並区で6つの保育園を運営する社会福祉法人 風の森は、保育士の転職希望者が多く、2022年の中途採用の倍率は13倍にもなったそうです。“保育士が働きたくなる保育園づくり”の、経営面での工夫について伺いました。
国の基準の2倍以上の保育士を雇える理由
社会福祉法人 風の森の統括を務める野上美希さんは、シンクタンクや大手人材企業で働いたあと、妊娠を機に夫の実家が運営する幼稚園などの経営をはじめ、現在では6つの保育園の運営に携わっています。
「コロナ禍で保育園が開けられない状況になった際に、子どもを預けないと働くことができないご家庭が多くありました。改めて世の中に、保育士の仕事の重要性を気づけていただけたのではないかと思います」
野上さんは、保育の質を向上させるために「保育士の働きやすさ」に注目し、労働環境の改善に取り組んできました。最も特徴的なことは、国の基準の2倍以上の保育士を配置していること。
これによって保育士が休憩時間を確保できるほか、業務時間内に仕事を終わらせることで、残業をなくすことも可能にしました。
「昔は、一斉活動で“みんなで同じことをより良くできるようにしよう”というものでしたが、今は子ども一人ひとりの特徴を伸ばす、子ども主体の保育というものが言われています。
そのための環境を保育士が整えて、子どもたちの得意なことや好きなことを伸ばしていこうというものです。保育士の給与面は少しずつ改善されてきているのですが、先生の配置人数はずっと変わらないままです。そこも変えてほしいですね」
現在の国の基準では、0歳児の子ども3人に対して保育士ひとり、3歳児では子ども20人に対して保育士ひとりなどと定められています。
野上さんは、保育士の配置人数を増やしてほしいと願う一方で、一律に人数を増やしてしまうと、常に人手不足と言われるなか、保育士が確保できずに運営できない園が出てしまう懸念もあるといいます。
「現実路線として、保育士の人数を増やすことは自主的に行って、そのための補助をいただいて運営しています。
自治体から、先生の配置を増やすといただける補助がありますので、それが人件費に充当できるかを踏まえながら採用しています。先生の給与を下げるのではなく、いかに人数を増やしていけるか、その方法の模索を続けています。
認可の保育園なので、保護者の収入によって自治体が定めた保育料を保護者の方は納めていて、その金額を上乗せすることはできません。ですので、国や自治体の補助を最大限に活用しています」
野上さんは、補助金を利用することにも課題があるといいます。
「制度自体が難しくて着手しにくいものがありますので、こちらも勉強しながら進めています。そして補助金をいただくからにはもちろん、報告書などの提出義務があります。
基本的に補助金は事前にいただけるものではなく、何かを実行してからいただくものなので、私たちは自助努力でやってきていますが、採用できない園もあるかと思います」
これをしたからといって劇的に経営が改善するという何かひとつの抜本的な方法があるのではなく、ひとつひとつの地道な作業で成り立っていると野上さんは話します。