他業界からの目線で行う改革
保育の質を向上させるために“保育士の働きやすさ”がもっとも大切だと話すのは、園の運営を統括する野上美希さん。
「国の基準の2倍以上の保育士を配置しています。それによってワークシェアができますので、事務作業を保育以外の時間で行うことができます。
そのほかには、当たり前のことなんですが、休憩が60分取れる、残業がない、年間休日が125日、祝日も含めて完全週休2日制。実は、どれも特別なことをしているわけでなく、一般企業では普通なことをしているだけです。
でも保育業界での常識は違っていたので、それを覆していく必要がありました」
野上さんは、理系の大学を卒業後、シンクタンクに4年、大手人材企業で6年働いたあと、妊娠をきっかけに2009年から夫の実家の幼稚園運営などに携わることになりました。
待機児童問題が声高に叫ばれるなか、社会福祉法人を立ち上げて保育園の運営に着手したそうですが、最初は課題が山積していたと話します。
「開園1年目は、国の基準通りの保育士の人数配置でスタートしたんです。でもそれでは先生たちが残業をしないと業務が終わらない現状を見て、人数を増やしていきました」
保育園の開設には0歳児の子ども3人に対して保育士ひとり、3歳児では子ども20人に対して保育士ひとりなどといった国の基準が定められています。
「先生たちから、常に課題をヒアリングしました。保育業界では休憩が取れず、子どもたちの寝ている時間に事務作業をして、それでは終わらないので残業もするというのが風習になっていて。
国の基準は時代に合っていないというのが他の業界から来た人間として感じたことです。子どもたちの命を保証して成長を見守る仕事が、保育士のつらさや苦しみから生み出されるのは違うのではないかと思います。
保育業界では『当たり前だよね、なんとかがんばろう!』とされていることが多いのですが、働き方改革がどの業界でも行われる時代のなかで、改善が必要だと感じました」
その後、保育士の人数を国の基準の1.5倍に引き上げた結果、働き方は改善したそうですが、保育の質という面では、課題が残ったといいます。