「自律性・関係性・有能感」を育む関わりを

しかし、ご相談者様のお子さんの場合、背景にある悩みが長らく解決されていない可能性が高く、嘘をつかずに過ごせる状態に回復するには時間がかかるかもしれません。

 

まずは小学校4年生くらいの時期まで記憶をさかのぼり、お子さんの話は聞けていたか、寄り添うことができていたかなど、ご自身が親としてどう接してきたか、点検してみてください。

 

そのうえで、内発的動機づけ、つまり自発的なやる気を育む関わりを心がけていきましょう。内発的動機付けを促すうえで大事だといわれる要素は、3つあります。

 

1つ目は、「自律性」。行動や方法を自分で選べるということですね。自分で何かを選ぶと、納得感が生まれます。2つ目は、「関係性」。周囲との信頼関係、そして自分で自分を信じられているという実感です。3つ目は「有能感」で、「自分はできる」という意識や自信です。

 

この3つがそろっているほど自発的なやる気が生まれやすいのですが、お子さんにはおそらくどの要素も不足しているのではないでしょうか。この1つひとつを立て直してあげてください。

 

たとえば、本人が選べる範囲で何かを選ばせてあげる、「これならできる」と思われる事柄を見つけてその挑戦を手伝ってあげる。そういった関わりを続けていくと、時間はかかるかもしれませんが、親子間の信頼関係が回復していくはずです。

 

大切なのは、お子さんのことを信じていると伝えたうえで「叱りたくないし安心したいから、嘘はやめてほしい」とお願いをすること。そこから寄り添う関わりをスタートさせてください。

 

最近ではリモートワークの増加で子どもの行動が見えやすくなり、小言が多くなってしまう親御さんも増えています。ご相談者様も心当たりがあるとしたら、そんな親御さんがわずらわしいからお子さんは嘘で片づけているという事情も考えられます。

 

いずれにせよ、今目の前で起きている現象には、これまでの親のあり方が関係しているのではという視点をお持ちになり、お子さんが抱える事情に目を向けて寄り添っていくことが大切です。

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!