本当はアナウンサー部長になりたかった

── ただ、復帰から約半年後の2019年10月にはMBSを退社されました。退社に至るまでにはどのような背景があったのでしょうか?

 

豊崎さん:
復帰してみて、仕事の内容自体にはやりがいがあってとても楽しいんです。でも会社にいるとやっぱり「もっと仕事したい」とか「もっと自分のキャリアを積みたい」という気持ちが湧いてきて、頭のなかが仕事でいっぱいになってしまう。

 

その一方で、家に帰ると「こんなに可愛い子がいるのに、なぜわざわざ預けて仕事をしているんだろう…」という後ろめたさみたいな気持ちもあって。まったく正反対の考えを持つ「私」が同じ部屋にいる感覚がありました。

 

どちらも正解であり、どちらも大切で、仕事と育児に順位をつけることができなかったというか…、ずっと葛藤がありましたね。

 

── その葛藤は、一緒に働くアナウンサーの先輩にも相談されたのでしょうか?

 

豊崎さん:
もちろん辞める前にいろんな人に相談して、先輩たちが「どうやって乗り越えたのかな」とかいろいろと考えました。

 

その話を聞きに行くと「すごくよく分かるよ」って一緒に涙を流してくれた先輩もいて…。すごくうれしかった一方で、40代の先輩が今も葛藤していらっしゃるのなら、きっと向こう10年は仕事と子育ての両立について悩み続けるんだろうなと思ったんです。

 

これから会社員として働くうえで、自分の仕事だけではなく、後輩にもアドバイスをしたり、仕事のケアをしたりする場面が出てくるはず。でも、今の私は子どもや仕事など自分のことだけに精一杯で、周りに気を配る余裕があるのかなって疑問に思いました。

 

そんな余裕がない自分に気づいたときに、働き方や環境を変えるほうがいいのかなと思い始めたんです。

 

それまで私のなかでは「いつかフリーになりたい」なんて気持ちはいっさいなくて、なんならアナウンス部長になりたかったんです(笑)。社内でキャリアアップしたいという気持ちが強くて。自分からフリーになるという発想が出てきたことにびっくりしました。

 

終始笑顔で優しく話す豊崎さん

 

── フリーに転向することで子育てにも力を入れたいという気持ちもあったのですか?

 

豊崎さん:
子育てに力を入れたいというよりは、もっと柔軟に仕事をしたい、そのうえで環境を変えたいという感じですね。仕事を減らしたいという意味ではなく、やはり会社員だと、どうしても融通の効かない場面が出てくるんです。

 

たとえばレギュラー番組がない日でも、ニュース速報などに備えて夕方5時まで待機しなきゃいけないし、朝はもちろん決まった時間に出社しなければいけません。

 

でも、社内の制度は整っていたんです。子どもに熱が出たら「豊ちゃん全然帰っていいよ」と言ってもらえる環境でしたし、そこに不満があったわけではありません。

 

ただ、たとえば、子どもに熱が出て保育園に行けなくなったとき、子どもを楽屋に連れてきて、そこにベビーシッターさんを呼んで、オンエアが終わった後に連れて帰るということができないかとちょっと相談したこともあったのです。

 

「会社員である以上、豊崎さんにそれを許すと全社員に許さなければならなくなる」と言われて。

 

とても真っ当な答えでその通りだと思いました(笑)。でも、それができるのがフリーランスの強みだなと。これだけ制度が整った会社にいてもこんなに悩むんだったら、時間が解決する以外の理由でこのモヤモヤが消えることはないだろうなと思ったんです。