介護レク「めっちゃ芸人と似ている」

── 介護職員初任者研修を取得した数年後に、高齢者に合わせたレクリエーションを提案する「レクリエーション介護士」の資格を取られたそうですね。

 

松本さん:
そうですね。より具体的に、介護と笑いのコラボを考えたときに、たどり着いたのがレクリエーション介護士だったんですよね。これを学んだときに「めっちゃ芸人と似てる!」と思ったんですよ。

 

まず最初に「アイスブレイク」というのがあるんですけども、僕らみたいな知らん人が来ると皆さん「誰この人?」って壁を作るじゃないですか。で、冷たいアイスのように固まってしまう。それを一度溶かしてから、一緒にレクリエーションしましょう、というのがアイスブレイクなんです。

 

これって、お笑いで言ったら“つかみ”なんですよ。若手のとき「どうもー」って出ていっても、名前もわからん、どんな人かもわからん。そのときに、たとえば、僕はちょっとぽっちゃりしてますけど「好きな食べ物がフルーツなんですよ。そんなに食べてないのに太ってるんですよ~」とか、見た目で情報を与えていくとか。あとは、出身地でボケたりという、パーソナルなことで笑いを取っていく。これがつかみなんです。

芸人ならではの自分を“下げる”アプローチ

── お笑いライブでよく目にしますよね。

 

松本さん:
はい。これを、介護に持ち込んだらどうなんか、と。そうしたら、どんどん自分たちらしい、芸人だからこそできるレクリエーション介護の形を作っていくことができました。

 

それまでは、介護のプロのアプローチでやっていたんです。でも、手遊びとか、脳トレをやっても、なかなか利用者さんが参加してくれなかった。

 

「なにがあかんかったんやろ」と思ったときに、僕らはけっこう早めに利用者さんに「これやってくださいね」って言ってたんですよね。利用者さんは、会社でも役職を経たような方や、子どもを育て上げて巣立たせた方とか、言うたら人生の大先輩じゃないですか。

 

その人らの前に、わけわからん芸人が出てきて「じゃあいきますよ、右手を挙げてください、はい、グー!」ってやっても、「バカにすな」やと思うんですよね。

 

── お二人にはバカにするつもりがなくても、そう思われてしまう、と。

 

松本さん:
そうです。座っている利用者さんに、立っている僕らが話しかけるだけでも、「先生と生徒」の立場になってしまう。目上の方に対してそれは失礼やなと思って。

 

そこで、芸人の“下げる”アプローチを使ったらどうかな、と。芸人って、自分の貧乏エピソードとか失敗談をしゃべることで「あほやなコイツ」って笑ってもらえるじゃないですか。笑ってくれる=受け入れてくれるってことなんですよね。

 

そこで、利用者さんが先生で、僕らが生徒という立場に逆転させたらどうか、と。考えたのが、まずその土地のことを質問するんですよ。利用者さんは、その土地のプロなので、教えてくれる。たとえば、どこ出身ですか?

 

── 神奈川県です。

 

松本さん:
地元で有名なお菓子とかあります?

 

── 鳩サブレ、とか?

 

松本さん:
そうなんですね~!鳩サブレっていくらぐらいするんですか?買って帰ろ~とか。

 

そこで親近感を持ってもらえるので「じゃあ僕ら、ちょっと考えてきたのがあるので、一緒にやりませんか?グーしてもらって良いですか?」といったら、みんなやってくれるようになったんです。

 

そのうちに、介護のプロの方々から「芸人さんの意見が聞きたい」「高齢者の心の開き方を講演してほしい」と吉本に問い合わせがくるようになって。僕らもそれは意外でした。

 

芸人ならではのスキルを活かし、介護レクがうまくいくようになるまでには数々の失敗があったとか