“教育漫才”ファイナルラウンドの様子

「はいどうも〜!」「シャカシャカチキンで〜す」。体育館で漫才を始めた小学6年生のコンビが、会場を爆笑の渦に巻き込みます。いじめや不登校をなくした秘策は、埼玉県の市立小学校で校長を務める田畑栄一校長が発案した「教育漫才」。笑いで学校の問題を克服できるってどういうことですか?

「どつきや暴言はNG」教育漫才が生む効果とは

「ここ数年、本校では、不登校・いじめの認知件数が減少傾向にあります。教育漫才を始めて8年が経ちますが、児童や教師にとっても得がたい効果を実感しています」

 

そう話すのは、埼玉県越谷市立新方小学校の田畑栄一校長です。前々任校で取り組み始めた教育漫才を通して、子どもたちに「あたたかいコミュニケーションとは何か」を伝え続けています。

 

教育漫才は国語や総合、特活などの授業5時間分(約1か月)を使い、コンビ・トリオ決めからネタづくり、練習、ネタ発表までを行います。

 

全コンビが教育漫才を終えると、一番おもしろかったコンビに投票。もっとも投票数の多かったコンビ・トリオは、年2回開催される教育漫才大会へ出場します。

 

教育漫才大会では、プロの芸人による司会のもと、代表コンビ・トリオの本格的な教育漫才が繰り広げられるのです。

 

「漫才」と聞くと“どつき”や“暴言”などの荒っぽいイメージもありますが、2つのルールを設けることで、いじめを懸念する声はなくなったそう。

 

「『教育漫才では、朗笑(あたたかい笑い)を求めているんだよ』と子どもたちに伝えたうえで、2つのルールを説明します。

 

1つ目はどついたり蹴ったりしないこと。2つ目は『死ね』『きもい』など、相手が不快になる言葉を使わないこと。

 

これらはいじめの元凶となる行為だから使わないでねと約束するんです。これを徹底することで、教育漫才をしているときはもちろん、日常生活にも思いやりのある言葉やコミュニケーションが増えていきました」

 

教育漫才のコンビ・トリオは、仲が良い者同士で組むのではなく、くじ引きで決定します。そのため、話したことがない人とコンビになる可能性も。

 

それまで関わることがなかったクラスメートと新たな関係性を築いていく過程で、意外な発見や接点が見つかり、固定されがちな友だちの輪が広がっていくのだといいます。

 

「昨年から、『同質集団(同年齢の子どもたちが、同じことを同じペースで学ぶ学級制)からの解放』をテーマに、異学年コンビ・トリオにも挑戦しています。

 

本校は児童数が約200名で1学年あたり1~2クラス。イベントに際して小回りがききやすいんです。

 

体育館に児童全員が集まり、1〜2年、3〜6年に分け、くじ引きをしてコンビ・トリオをつくりました。

 

子どもたちはふだん、同質集団のなかでテストや運動などによる比較・競争・序列にさらされています。そのストレスが人間関係の歪みにつながり、不登校やいじめが起きてしまう。

 

これは学校側が解決しなければいけない課題だと考え、教育漫才を通した“異学年交流”をスタートしました」

 

なかには「人前に立つのが嫌だ」「大きい声で話すのが苦手」という子どももいるはずです。そんな子には、どのように対応しているのでしょうか。

 

「前に出たくない子には、『どうしたい?』と本人の希望を聞いたうえで、裏方を任せたり大会を盛り上げてもらったりします。嫌なことをムリにやる必要はないですから。

 

『次の機会にチャレンジしてみようという気持ちが湧いたらやればいいから』と話します。

 

教育漫才の目標は、周囲を笑わせることだけではありません。あくまでも、友人同士話し合ってコミュニケーション力や創造力を高めること。お互いを認め、みんなで笑い合って、あたたかい人間関係を築くことなんです」