移住して生まれた「心の余裕」
── 移住先での生活はいかがですか。
田村さん:
東京にいたときは、目の前のことに日々、追われていました。こちらに来て心に余裕ができたように思うんです。空を見ていたら、「雲の表情や空の色のグラデーションがこんなにある」ということにも気づいて。空を見ているだけでイマジネーションが浮かんできます。
東京では、仕事と移動の繰り返しで空白の時間がありませんでした。こちらにきてから運転免許を取ったのですが、移動して空を見上げる時間と心の余裕があります。
最初は、バスが1時間に1本しかないとか、夜は真っ暗でびっくりしました。でも東京に帰ったときに、ものが多すぎて疲れてしまったんです。すっかりこちらの生活に慣れていますね。
オフのときは切り替えるために近くの自然がある場所を訪れます。今、先生は私ひとりしかいないので、するべきことはたくさんあるのですが、今がいちばん心に余裕があると思います。
── 念願叶って、子どもたちのレッスンも始められましたね。
田村さん:
ダンスをしたことがない子どもたちも、この1年で人との関わり方が変わって、ぐんぐん伸びています。挨拶から始まり、やるときはやる!楽しむときは楽しむ!これは表現に繋がることですが、思っていることは伝えないと伝わらない、相手に自分の思いを伝える勇気を持つこともレッスンで伝えています。
「先生はしつこいです、先生は熱苦しいです」と言っているんですが(笑)。心が動くまで言い続ける大人が近くにいてもいいのかなと思って、関わり続けると伝えています。
田村さん:
ダンスをしたいけれど、その環境がない方に「あきらめないでやってみましょう」と伝える想いで活動を始めましたが、自分に余裕できると、「私にももっとできることがあるんじゃないか」と思うようになりました。
アシスタントの齋藤は、同じ目的を持ちながら意見を交わし、試行錯誤しながらより良くしていく過程や、人と交わっていく楽しさを教えてくれました。それまでの私は、何でも一人で考え、そして実現しなくてはと、ギラギラしていましたし、地域に溶け込みたいなんてひと昔前の自分には考えられないことでした。
齋藤は保育士の資格を持っているので、子育て世代の方のレッスン中に、無料託児をするという企画をしたんです。赤ちゃん連れの方と、子育てが終わった世代の方達が交流して盛り上がって、ママたちが踊っているのを子どもたちも見ていました。
目指すは、赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで、それぞれがキラメキながら異世代交流のできる温かいダンススタジオです!
これからは発表会のほかにも、高齢者の施設などを訪問する機会が作れたらいいなと思っています。地域に根ざした活動をしながら、子どもたちには、自分が頑張ったことは人の心を動かせることを実感して、よりダンスの楽しさを知ってもらいたいです。
PROFILE 田村圭さん
クラシックバレエを多胡寿伯子に師事。N.Yへの短期留学でジャズダンスなど様々なダンスジャンルを学び、帰国後、劇団四季に所属。主な出演作品は「ライオンキング」ナラ役、「ユタと不思議な仲間たち」モンゼ役、「エクウス」ジル役など。退団後はバレエ・ジャズダンス講師として、3歳から大人への指導、ミュージカル作品の振付指導など幅広く活動。2021年福島県白河市へ移住し、活動をスタート。ACHATES Tamura Dance Studio 主宰。
取材・文/内橋明日香 写真提供/田村圭