友達がくれた「5000円チャージしたSuica」でバスに乗る楽しさ知った

── 意識の面だけでなく、ライフスタイルにも変化はありましたか?

 

山田さん:
みんなと連絡を取り合って、みんなと時間を合わせて…ということが、本当に苦手だったんです。それなのに、合唱団をつくっちゃいました(笑)。

 

「大勢で歌うっていいな」と思います。つらいなと思っても、私が1を出して、みんなが1を出して…“10人いれば10になる”っていう感じが、すごくわかってね。

 

昔は切符の買い方も知らなかったのに、今や電車の団体チケットを手配するし、キャンセルも上手くできます。切符を忘れてきたメンバーがいたら、どう対処するかまで(笑)。本当にいちばん苦手なことを、やるようになった気がしますね。

 

山田邦子さん
こちらの質問に丁寧に答える姿勢が印象的

── 団体行動が苦手な人が、合唱団をつくるとか、団体チケットの手配までというのは、なかなか大きな変化です。

 

山田さん:
バスや電車に乗るようになったのも、がんになってからですね。

 

放射線治療に毎日通うことになったとき、友達が「邦子さんはタクシーばかりでしょ。これでね、毎日違う行き方をいろいろ研究したら、放射線治療に毎日行くのも楽しいよ」って、5000円チャージしたSuicaをくれたんです。それで、とっても嬉しくなっちゃって(笑)。

 

病院にバスで行けるとわかって、乗ってみたら、すごく楽しい。タクシーと違って、高さがあるでしょう。景色が変わって、「おせんべい屋さんがあったんだ」とか、「ここでコーヒーが飲めるな」とか。見える世界が変わって、本当に新鮮でしたね。

 

いろいろわかってくると、今度は少し前のバス停で降りて、歩いてみる…そういう元気が出たんです。

 

── Suicaにチャージされた金額以上、数字では測れないような、とても素敵なプレゼントになりましたね。

 

山田さん:
電車もね。例えば、上野駅。これまで、新幹線とかに乗るのにタクシーで行ったら、キオスクでちょっと買い物するくらいだったのに、お店がいっぱいあるとわかって…。

 

ずっと、どこへ行くのもドアツードアでしたけど、駅ってあんなに買い物したり、ごはん食べたり、お酒を飲めたりするんですね。それを自分だけの発見みたいに話すと、みんなに「知ってる」って言われちゃうんだけど(笑)。

 

でも、それで友達とも会話が広がって、「今度、あそこで待ち合わせしよう」とか、「帰りに、あの焼き鳥屋さんに寄ってみよう」とか、すごくワクワクする楽しいことが増えました。

 

山田邦子さん
「電車やバスに乗る楽しさを初めて知った」と笑顔で話す