社員の出産や育児、働き方の相談に乗り、仕事とプライベートの両面からケアする企業専属の「顧問助産師」を福利厚生として取り入れる企業が増えています。一般的に、病院で出産をサポートする職業だと思われている助産師を、なぜ企業に置こうと思ったのでしょうか。日本初の顧問助産師サービス「The CARE」を提供する「With Midwife(ウィズ・ミッドワイフ)」代表の岸畑聖月(みづき)さん(31歳)に、サービスが生まれた背景やその内容についてお聞きしました。

 

赤ちゃんの人形を使ってオンラインで相談に乗る岸畑聖月さん

地域の命を守る「産婆さん」を復活させたい

── 一般的に、助産師は病院で出産をサポートする職業というイメージが強いかと思います。なぜ助産師の“職場”を企業に置くサービスを作ろうと思ったのでしょうか?

 

岸畑さん:
助産師は戦前まで「産婆さん」と呼ばれ、出産を手助けするだけでなく、妊娠中のケアや子育ての相談、子どもへの性教育などを担い、地域の命をサポートする社会的な存在でした。

 

このような本来の能力と世間的なイメージに食い違いが生まれたのは戦後のことです。

 

当時、ほとんどのお産は自宅で行われていたのですが、戦後に占領軍としてGHQを設けていたアメリカには、産婆制度や自宅分娩という文化がありませんでした。そのため、自宅分娩を病院分娩に移すように指示を出し、出産は病院でするものという現代のイメージに変わったのです。

 

岸畑さんは2019年に日本初の顧問助産師サービス「The CARE」を立ち上げた

助産師が最も活躍する「出産」の場が地域から病院に移行したことにより、地域コミュニティの中から「産婆」という存在はほぼ消えました。

 

現在、国内では病院分娩の割合がほぼ100%となり、確かに日本は世界でトップレベルに安全にお産ができる国となりました。その一方で、妊娠中の身体づくりや産後の不安を聞く機会は失われてしまいました。

 

現在、日本では産後うつやネグレクト、望まない妊娠などの社会課題が山積していますが、出産以外の場面で、地域で母親を守る人がいなくなった結果だと考えています。私たちはもう一度、「助産師を社会に戻したい」との思いでこのサービスを構想しました。

 

──「助産師を社会に戻したい」という理念のもと、まず企業にターゲットを置いたのはなぜでしょうか?

 

岸畑さん:
戦後、地域のコミュニティはどんどん希薄化してしまい、都会では隣に誰が住んでいるのかも分からない状況です。人の繋がりのないコミュニティに助産師を戻したとしても、存在自体が認知されず、波及していかないのではないかと思いました。

 

では、現代社会のなかでどこにコミュニティがあるのかと考えたとき、私は会社という組織にあると思ったんです。

 

企業というコミュニティであれば、上司や隣の部署の同僚のことも分かっているし、人事部では誰が出産するのか、育休を取るのかも把握されている。組織コミュニティとして機能している企業に助産師を戻すことができれば、そこで生じる命の誕生や子育てを支えることができるのではないかと思い、企業向けの顧問助産師というサービスを立ち上げました。