厳しい試験で養われるドライバーのプロ意識
── アメリカではスクールバスのドライバーになるために必要な資格が多いと聞いています。
大原さん:
私の住んでいるカリフォルニア州でスクールバスのドライバーになるには、自動車の普通免許、商業用免許、大型免許、スクールバスの免許、陸運局(DMV)の免許のほか、CHP(カリフォルニアハイウェイパトロール)の筆記と実務試験をパスして、救命救急講習も受ける必要があります。すべてをクリアしなければなれないので、ドライバーとしてのプロ意識は高いと思います。
あとは1年間に10時間の講習を受けなくてはならず、そこで国内で起きた事故や州の法律の変更点、改めて子どもを安全に守ることへの注意喚起も行われます。1年間に10時間なので、だいたいひと月に1度、会社で講習に参加している形です。
また、実際にドライバーになった後も4年に1回、CHPの筆記と実務試験があります。バスの安全点検に関することから幅広く問われるため、ドライバー仲間たちは恐れているのですが、免許は取ったら終わりではない、覚えたことを忘れてはならないという緊張感があります。
でも、アメリカでは定年がないので年齢が上の方も働いています。日本だと年配の方が運転するのは…という風潮があるかと思いますが、アメリカの場合は能力を年齢で区切るのではなく、厳しい試験をクリアしているかどうかが大事。
若くても年を取っていても、試験に受からなければ働けません。それに、それぞれのバスに機械がついていて、急ブレーキ、急発進、アイドリングの時間、走行スピードなどが計測されていて2週間に1度、スコアが会社に張り出されます。その結果が悪いと呼び出されて指導されます。
── 日本では幼稚園や保育園など、小さい子どもを乗せるバスに、先生やスタッフが同乗するケースがありますが、大原さんの勤務先ではどうですか。
大原さん:
以前、障害を持つお子さんの送迎をしていた際は、「モニター」と呼ばれるバス会社のスタッフが専属でつき、1年間は同じスタッフが乗っていました。お子さんの状況に応じて看護師が一緒に乗る場合もあります。でも、基本的に健常者のお子さんだけの場合にはモニターはつきませんので、車内にいる大人はドライバーひとりだけ。
自分でシートベルトができない子がいたら運転手がつけに行きますし、走行中にシートベルトを外せないようするバックルガードと呼ばれるキャップをつけにいくこともあります。
── 車内で起きるすべてのことをひとりで担当するんですね。
大原さん:
日本と違う点は、バスの中には親御さんや学校の先生は乗ってはいけないことです。横についてちょっと補助をしてもらうくらいいいのではと思ったのですが、絶対に乗せないのは、責任の所在を明確にするためだと言われました。
子どもが車内に乗ったらすべてバス会社、ドライバーの責任。最近はふざける子どもたちも増えて、車内で騒ぎながらバスの通路でポケモンカードの交換が始まることもあるのですが、「バスの中では私がボスだから!」と言い聞かせて、しっかり座らせます。
逆に子どもたちがバスから降りて、先生や親に引き渡した後は、バス会社の責任の範囲ではありません。アメリカでは何か起きてしまったら、会社も個人も訴えられますし、多額の費用が発生しますので責任の所在がはっきりと決められています。命に関わることであればおそらく100億以上のものすごい額になると思います。
── 今後、日本ではどのような対策が必要だと思いますか。
大原さん:
アメリカでも過去に子どものバス車内での置き去りはあったのですが、現在ではさまざまな対策が取られています。日本では今、先生やスタッフが幼稚園や保育園、学校の仕事もしてバスの管理もするという多重業務のように見えますが、業務をもっと切り離して考えて、それぞれの仕事に責任を持つべきだと多います。
アメリカはいい加減というイメージがあるかもしれませんが、何か起きたらすぐ首にされますし、法律やルールとして一度決められたことは必ず守る風潮があります。
ドライバーには講習を義務化させて、意識を高めること。それと同時に行政が費用を負担してシステムを導入し、2度と同じようなことが起きないよう徹底してほしいと願っています。
PROFILE 大原幹子さん
2001年よりアメリカ・サンフランシスコ郊外在住。ツアーガイドなどを経て、2019年11月よりスクールバスのドライバーとして勤務。転職や現地生活での出来事を赤裸々に綴ったブログ、「サンフランシスコお笑いサバイバル情報」を更新中。
取材・文/内橋明日香 写真提供/大原幹子