バスに子どもが置き去りにされる事故が相次いだことを受けて、政府は対策案を取りまとめることを発表しました。スクールバスを利用する子どもたちが多いアメリカではどのような対策をとっているのか──。サンフランシスコ郊外在住20年以上で、現在、スクールバスのドライバーとして子どもたちの送迎を担当している大原幹子さんにお話を伺いました。

 

子どもたちの送迎をするアメリカの黄色いスクールバス

システム導入もアナログな対策をとるアメリカ

── 日本で子どもがバスに置き去りにされる事故が相次いだことについてどう思われましたか。

 

大原さん:
事故のあとで、バスに閉じ込められたら子どもがクラクションを鳴らして知らせる方法などを見ましたが、子どもではなく、やはり大人が気をつけて意識を高めて対策することが必要だと思います。

 

おそらく日本では、親御さんたちが「自分の身は自分の身で守らないと」という方向になったのかもしれませんが、お金をいただいている以上、本来は送迎側の責任だと思っています。

 

アメリカの学校では、バスに乗ってから降ろすまでの子どもたちの安全は、私たちバス会社の責任という線引きがきっちり決まっていて、日本のように園や学校側が送迎を担当することはありません。

 

── 子どもの置き去りを防ぐために、どのような対策が取られているのでしょうか。

 

大原さん:
子どもたちが降りたあと、チャイルドチェックというシステムを通して、子どもたちが車内に残っていないかチェックします。エンジンを切ると、チャイルドチェックが発動する仕組みで、子どもを探すようアナウンスが流れます。

 

運転手は2度車内を往復して、一番後ろの席まで子どもがいないかチェックして歩きます。一定の時間ボタンを押さないと、車外にも聞こえる音量でクラクションの警報が鳴り出します。

 

車内の後ろに設置されている赤いボタン。こちらを押さないと、警報が鳴りだす

後ろに行く時は座席の上を、前に戻る際には座席の下を見ます。このチャイルドチェックはベーシックなものでひとつ200ドルくらいだそうです。警報を止めるためのボタンは車内の後ろについているので、ドライバーは必ずそこまで行かなくてはなりません。

 

それが終わると、ボタンの隣に貼ってあるQRコードをタブレットで読み込んで、質問項目にチェックを入れ、サインして送信します。その後、チャイルドチェックが完全に終わったことを無線で会社に報告してからバスを次の目的地へと進めます。

 

大原さんが使用しているタブレットの画面。「バスに子どもがいたか」などの質問項目にチェックを入れていく

── 警報が鳴るシステムやQRコードが導入されていますが、目で確認し、無線で口頭連絡するというアナログな方法も同時に取っているのですね。

 

大原さん:
車内の後ろまで行って戻る、もう1回行って戻る、という単純なことですが、それをするかしないかでは全然違うと思います。

 

もちろんボーッとしていてはダメですが、「もしかしたら子どもが残されているかもしれない」という意識のもとで取り組めば、ヒューマンエラーと言われることも、さすがにどこかで引っかかると思います。携帯電話やジャケットの忘れ物を見つけることも結構多いです。

 

スクールバスの車内。ドライバーは必ず、子どもが残されていないか、くまなくチェックを行う

日本で車内に人感センサーなどを設置する話が出ているのを見ましたが、何も対策が取られていない現状から、いきなりそれは話が飛躍しすぎていると思います。なんらかのシステムを導入することは必要ですが、なんでも機械に頼って高額な費用をかけるのではなく、まずはドライバーがプロ意識を持って、子どもの安全を守るためのチェック体制を確立することが大切だと思います。

 

── 子どもが閉じ込められないように、バスのドアを開けておくべきとの議論もあります。

 

大原さん:
私たちは基本的にすべての窓を閉めて、ドアも鍵をかけてバスから降りるのですが、それは治安上の問題からです。車内のものが盗難に遭ったり、停車中のバスの部品が盗られて高額で売られたりするケースもありましたので、不審者対策として路上で一時停止する際も、細心の注意を払うよう言われています。

 

日本で子どもが逃げることができるようにドアを開けておくとこちらの人に言ったら、おそらく「なんで?」となるでしょうね。誰も車内にいないことを確認したら閉めるべきでしょうと。