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2017年に開発・販売以来、デパートや公共施設などで導入が進んでいる個室型のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」。街中にいながら、家族のプライバシーが守られた空間でゆっくりおむつ替えや授乳ができると子育て世代から関心を集めています。そんな「mamaro」を生み出したのは、2児の父である長谷川裕介さんです。開発秘話や今後について伺いました。

 

Trim株式会社 代表取締役の長谷川裕介さん
Trim株式会社 代表取締役の長谷川裕介さん

「ダメパパ」が100人以上のお母さんの声を聞き続けて

──「mamaro」の開発は、もともと授乳室の検索アプリの仕事から生まれたアイデアだそうですね。全国での授乳室の数が足りないことに課題を感じた長谷川さんが実際にゼロから作ったそうですが、その原動力を教えてください。

 

長谷川さん:
広告代理店に勤務していた28歳のとき、母がガンで亡くなったのですが、その後、同じくガンでお父様を亡くされた方と知り合いました。その方は「日本の医療を変えたい」と医療系ベンチャーを起業していて。僕も何かの役に立てるならとその会社に入社し、授乳室の検索アプリの開発・運営に携わりました。

 

ところが、仕事をしていくなかで、授乳室の数が需要にまったく追いついていないことに気づいたんです。また、母に何も親孝行ができなかったという後悔があって、その想いをきっかけに「mamaro」の事業を始めました。

 

当時、100人以上のお母さんにヒアリングをさせてもらったのですが、社会の課題だと思わざるを得ないお母さんたちの思いをたくさん聞いて、「お母さんたちが置かれた厳しい育児の状況をどうにかしなければ」という使命感がどんどん強くなっていったんです。

 

当時、僕は2人目の子どもが生まれて間もなかったのですが、育児には全然関わっていなかったダメな父親でした。そんな僕がお母さんたちから直接大変な状況を聞いて、なかには「このままだと命を落としてしまうのではないか」と本気で心配した方もいて…。

 

今でも忘れられないお母さんたちの生の声が、「mamaro」の事業を続ける原動力になっています。

経営的な危機も「この事業はつぶせない」と踏ん張った

── お母さんたちが抱える育児の課題を解決するために事業を起こして継続するのは並大抵なことではないと思います。途中でやめたいと思ったことはなかったのでしょうか。

 

長谷川さん:
やめたいと思ったことはありません。でも、「もう続けられないかも」という経営的な危機はこれまで何度もあって。当時はとても苦しかったですね。

 

ただ、「この事業はつぶせない」と踏ん張ってきました。「mamaro」は販売以来、全国で400台ほどがさまざまな施設で導入されていて、累計10万世帯以上の子育て家庭に利用されていることがわかっています。

 

事業を途中でやめてしまうと10万世帯のお母さんが困ってしまうかもしれない。そんな状況をつくることは、僕が本来やりたかった「お母さんたちの役に立ちたい」という想いに反することなので、何としても残していきたいです。

 

個室型のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」
個室型のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」。家族だけでゆっくりと授乳やおむつ替えなどができるスペースとしてデパートやショッピングモールなどで導入が進んでいる

といっても、ガラスのハートの持ち主なので、何度も心折れるような場面はあったのですが(笑)。関係者の方々からは、「この事業はとても必要だし、人を助けている事業だからなくしてはいけない」という励ましの言葉をいただいたり、「できることは何でも応援する」と支えてもらったりしています。

 

特に同じ言葉を社員から聞けたときは、すごく嬉しかったですね。「『mamaro』をなくさないためにできることは何でもやりましょう」と社員が一丸となって事業に取り組んでくれるのが本当に嬉しくて、そんな社員のおかげで持ち直したところが大きいです。

 

── 社員の方も提携先の企業も理念や想いに共感されて、一緒に「mamaro」を広げようとしているのが伝わってきます。

 

長谷川さん:
「子育て世代に何かいいことをやりたいけれど、自分でやる方法が見当たらない」という方々が、僕たちの製品やサービスを見つけて「これだ!」と思ってくださるようです。「何か手伝えることはないですか?」と入社してくれた人もいます。