社員に給料を払えなくなり悩んだことも
── 辛いときはなかったですか。
阿部さん:
それはありました。移住したからというより、起業によるしんどさですね。
社員の給料が払えるかどうかというとき、社員のみんなに私が呼び出されて、「ひとりで抱え込まないでください」って言われてね。
自分たち全員の給料を下げていいから何とか乗り越えましょうと言われて、乗り越えられました。「困ったな」ということはたくさんあるけど、奥底では大丈夫って思えることを蓄えてきた気がします。企業にしがみついて生きるほうが不安です。
うちで働く社員はみな経営状況を理解し、自分ごととして考え、主体的に働いてくれています。たとえうちが潰れても、社員それぞれが社会に必要とされ生きていける力は身につけていると思っています。苦しいことでも仲間と力を合わせて乗り越えられると、楽しい思い出になるんですよね。
── 地域に馴染むためにどんな工夫をされましたか。
阿部さん:
まずは地域をよく知る努力をしました。いろんな現場をお手伝いさせてもらい、地域の人と語り合い、町づくりのイベントをしたりしました。
ありがたいことに、地域の人たちがお金じゃなくて心の支援を移住者に送り続けてくれているんです。
地域の人が僕たちを呼んでバーベキューをしてくれたり、どんなことがあっても応援し続けるからねと声をかけてくれたりしました。
── 嬉しいときはどんなときですか。
阿部さん:
初めて立ち上げた企業研修で、地元の漁師さんに話してもらったときの感動は忘れられません。
定置網漁船のトップの漁師さんに僕が質問をして、漁師のリーダーシップについて企業の方に聞いてもらったときのことです。
普段人前で決して語ることのなさそうなパンチパーマで強面の漁師さんが、ご自身のことを語られていくなかで感極まり、最後は苦労された経験から、「どうか親孝行をしてください」と泣きながら訴えるんです。研修の参加者たちも涙を流され、その思いが伝わっていました。
地元の人が生き生きと輝く場になり、研修にきた人も生きていくうえで大切なものを受け取り、運営側の私たちもビジネスとして持続できる。みんなが幸せになれるビジネス、それっていいなと思っています。