日本海の沖合に浮かぶ島根県・隠岐諸島。自然豊かな島々のひとつ、中ノ島(海士町)は、本土からフェリーで3時間以上もかかる離島でありながら、都会から移住してくる人も多く、注目を集めています。移住し、起業した株式会社「風と土と」代表取締役の阿部裕志さんは「次の社会モデルが島にはある」と話します。
満員電車で隣の人が嫌なのは環境のせい
── どうして移住されたのでしょうか。
阿部さん:
もともとは愛知県に住んでいて、トヨタでエンジニアとして働いていたんです。仕事を辞めて移住しようと思っていたわけではなかったのですが、海士町に遊びに行って、魅力を感じたことが大きいですね。
かつて大学受験に失敗して浪人しているんですけど、そのとき、体調を崩したんですね。
だから、生きる力を高めたいと思って、大学時代はバックパッカーとかをしていて。旅先で人と会うと、お互い人生を語り合い、助け合ったりしていました。
でも、都会で満員電車に乗って隣り合わせになった人には、肩がぶつかったぐらいで嫌な気持ちを持ってしまうんです。もし、この人と旅先で出会ってたら、人生を語り合っていたかもしれないと思うと、悪いのはこの隣の人ではなくて、このぎゅうぎゅう詰めの満員電車の環境だなって思ったんです。
そんなことを思っているなかで、おもしろい町があると言われて海士町に行きました。すると、僕は当時28歳ぐらいの若造でしたけれど、行政の幹部の人たちが真剣に「どうしたらこの町が無人島にならないか、アイデアが欲しい。知恵を貸して欲しい」って聞いてくるんですね。
そんな弱さを見せられる強さって素敵だなってこの町に惹かれました。
── よく移住まで決断されましたね。
阿部さん:
自分のなかで若い頃から決めているのは、後悔のないほうを選ぶっていうことですね。
死ぬときにあれをやっておけばよかった、あの人に会っておけば良かったって思って死ぬのは嫌だなと。そう考えるとそれまでの生活よりも、この小さい島で社会のモデルをつくって、広げていきたいって思ったんです。