「心が満たされるってこういうことなんだなと」──充実した表情でそう話す久保さん。50歳を迎えた今年、長年の思いを貫き、NYでモンテッソーリ教育の幼稚園教諭という新たなキャリアを踏み出しました。今回は、2人の女の子のママでもある久保さん流の子育ての考え方、「彼の存在が原動力」と語る夫婦のパートナーシップなど、家族の在り方について話を伺いました(全3回中の3回目)。
子どもたちの成長はダイヤモンドの輝きに匹敵する
── 幼稚園の先生として新たなスタートを踏み出された久保さんですが、今はどんなスケジュールで日々過ごされているのですか?
久保さん:現在は、週5日、朝8時から午後4時までの勤務です。毎朝6時に起きて、子どものお弁当と朝食を作った後、自転車で30分ほどかけて職場に出勤しています。今は本当に毎日が幸せで、「心が満たされるって、こういうことなんだなぁ」と実感しています。
── どういったときにいちばん喜びを感じますか?
久保さん:いつも思うのは、子どもたちはダイヤモンドの原石で、輝くために生まれてきた存在だということです。
私たち大人にとって当たり前だと思っていることも、子どもにすれば、毎日が冒険で、大きなチャレンジの連続。例えば、靴ひもが結べず、涙目になって頑張っていた3歳の子が、ようやく自分で結べるようになってその目が輝く瞬間だったり、パズルに悪戦苦闘していた子が「できた!」と満面の笑みを見せる瞬間だったり。一人ひとりが輝く瞬間に立ち会えることが本当に楽しいんですよ。
── とても温かな眼差しで表情からも幸せな様子が伝わってきます。そんなお母さんの姿を見て、久保さんのお子さんたちはどんな反応を?
久保さん:今、長女が20歳で大学生、下の子は14歳で中学生なのですが、2人とも私のことをとても応援してくれて、「ママ頑張ってね!」といつも言葉をかけてくれます。家では、子どもたちに幼稚園での話をしたり、ときには相談にのってもらうこともあるんですよ。
── それは頼もしいですね(笑)。
久保さん:「今日、幼稚園でこんなことがあったよ」などと、子どもたちの様子や感じたことなどを伝えると、興味津々という感じで聞いています。最近、上の子は「私も子どもが好きだから教職を取ろうかな」と言っていましたね。
「テストで良い点を取ってもご褒美なし」の真意は
── 娘さんにとって、ママの生き生きとした姿が刺激になっているのですね。子育てにおいて、意識していることはありますか?
久保さん:「これはダメ」とか「~しなさい」ということは、いっさい言わないようにしています。勉強や成績に関しても口出しはしませんし、テストで良い点数を取ってもご褒美もなし。子どもたちにはいつも、“誰のためにやるのかを常に考えて行動することが大事だよ”と、伝えています。
── 自主性を尊重しているのですね。
久保さん:「親の言うことを聞きなさい」という感じではないですね。むしろ、子どもの発言に「なるほどなあ…」と納得することも多いです。
── お子さんたちは、“こんな風になりたいから今はこの勉強が必要だ”と納得して、みずから行動するタイプなのでしょうか?
久保さん:それはあると思います。「将来こういうことをしたいから、今はこれをやりたい(やっている)」とよく言っていますね。逆にこちらが、「今はそんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」と思ってしまうこともあるくらいで。
── “やらされ感”がないから、モチベーションを継続できるのですね。
久保さん:自主性を大事にするアメリカの教育の影響も大きいと思います。言われることをやるのではなく、つねに先々を見据えて行動し、生き抜く力を身につける、という考え方なので。ディベートをしたり、自分の意見を述べる機会もたくさんありますし。
── 教育や周りの大人が与える影響というのは大きいですよね。子どもに「夢を持とう」という前に、大人がお手本になれるといいのですが…。
久保さん:夢に向かって行動していたり、ワクワクするような大人が周りにいることは、子どもの環境にとってすごく大切だと思っています。私自身も、“こういう風になりたい”“自分もこうなれるんだ”と思ってもらえるような大人でいたいですし、それが私たち大人の責任なのではないかなと感じます。
結婚22年!夫の存在は今でも「すべての原動力」
── 育児と仕事の両立には、夫の協力が不可欠です。久保さんのお宅では、夫婦で決めているルールなどはありますか?
久保さん:特にルールのようなものは決めてはいません。結婚して今年で22年ですが、夫とは、子育てはもちろん、何をするうえでも一緒に歩んできたパートナーという感じ。例えば、オムツ替えという作業ひとつとっても、楽しみながら夫婦でやる、というのが私たちにとっては当たり前なんです。
夫はとても真面目な性格ですが、チャレンジすることは嫌いではないので、私が何かに挑戦するときには、いつも応援してくれます。NHKを辞めるときやモンテッソーリ教育の勉強を始めるときも、背中を押してくれました。
最近は、リモートワークということもあり、食事の支度や洗濯などの家事も積極的にやってくれて助かっています。夫が一緒にいてくれることが、私にとってなにより心強いですし、すべての原動力に繋がっていますね。
──「夫の存在が原動力」と言える関係って素敵です!久保さんにとって心身ともに頼れるパートナーなのですね。そんな関係をいつまでも保ち続けるために、心掛けていることはありますか?
久保さん:そうですね…やっぱり「何でも話し合うこと」でしょうか。家族との関係もそうですが、“親だから”とか“夫婦だから”ということではなく、1人の人間として、お互いをリスペクトすることは忘れないようにしています。
── 最後に、これからの夢や目標を教えてください。
久保さん:私の夢は、日本でモンテッソーリ教育を広めることなんです。
これまでの人生を振り返ると、30歳で長女を出産し、40歳で教諭資格を取得、そして50歳の今、幼稚園の先生として働き始めました。だいたい10年周期で大きな変化を迎えています。
ですから次は、60歳くらいを目安に新たな展開に踏み出せるのかなと。その日のために、今は着々と準備を進めたいですね。
PROFILE 久保純子さん
1972年、東京都生まれ。大学卒業後、NHKに10年間勤務。2004年からはフリーアナウンサーとして活動。現在はテレビやラジオに出演する傍ら、執筆活動や絵本の読み聞かせ、翻訳を手がけるほか、日本ユネスコ協会連盟の「世界寺子屋運動」の広報特使を務める。2014年にはアメリカにてモンテッソーリ教育の資格を取得。現在は、夫と2人の娘とともに、ニューヨークに在住。
取材・文/西尾英子 写真提供/久保純子