学生の頃から教育に携わりたいと考えていた久保純子さん。NHKのアナウンサーになってからも、情熱の火は消えることはありませんでした。30歳での出産をきっかけに“リアルなママの勘”を生かした子ども番組を作りたいと思いきって独立、新たな扉を開きました。そして、転機となったのが、モンテッソーリ教育との出会い。そこから人生がさらに大きく動き出します(全3回中の2回目)。
「モンテッソーリ」は子どもにとって「夢の世界」
── 久保さんが、モンテッソーリ教育に出会ったきっかけを教えてください。
久保さん:今から15年ほど前、長女が小学生になったくらいの頃に、知り合いのママのお子さんを見て、衝撃を受けたことがきっかけでした。
すごい集中力で、何をするにも楽しそうに取り組む姿がとても印象的で、“なんてハッピーで幸せそうな子なんだろう!”と目が釘づけに。聞いたところ、モンテッソーリ教育の幼稚園に通っていたとのこと。
調べてみると、今まで見たこともないようなユニークな取り組みがたくさんあって、“これは子どもにとって、夢の世界なんだろうな”と、感銘を受けました。
── モンテッソーリ教育といえば、将棋棋士の藤井聡太さんなどが受けたことで知られていますね。自由で自主性を重んじるイメージがあります。
久保さん:モンテッソーリ教育で一番大切にしていることは、“みんなが幸せでいられるような環境をつくろう”ということ。そのための規律のひとつとして「掃除」の活動があります。
ゴミがあると衛生環境的に心地よい空間ではありませんし、物が落ちていたら誰かが踏んでケガをするかもしれない。誰もが気持ちよく過ごせるように、自分の周りの環境を整え、掃除をする。
日本では当たり前のことに思えますが、欧米の場合、掃除は業者に頼むことが多いので、子どもたちが部屋を掃除したりすることはほとんどありません。その結果、ゴミをそのへんに置いたり、適当に捨ててしまうケースも少なくないんです。
── みんなが幸せで心地よく過ごすにはどうすればいいかを自ら考えて、行動するのですね。
久保さん:みんなが「右向け右」ではなく、いろいろな境遇の子どもたちがそれぞれの発達段階にあわせて取り組むので、他の誰かと比較するわけでもなく、自分のために行うものになります。
みずから考え、自分で決めて次のステップに進んでいくという過程を踏むので、一人ひとりが自分のペースで歩むことができ、とても素晴らしいと感じています。
40歳で再び学生に「20代とは違った充実の日々」
── その後、40歳でモンテッソーリ教育の幼稚園教諭の資格を取得されています。
久保さん:夫の転勤でカリフォルニアに移住したのですが、長女が小学生、下の子がまだ2~3歳だったので、子育てに集中したいと思い、お仕事をセーブしていました。ですが、じっとしていられない性分もあって(笑)。スタンフォード大学で心理学の授業を受けたりと、少しずつ自分でできる勉強を始めていました。
そのときに、モンテッソーリ教育の先生になる資格を取れないかなと思って調べてみたら、偶然にも車で30分ぐらいの場所に養成学校があったんです。これは運命だな、と。早速、受験を経て、2年間の学生生活が始まりました。
── 40歳での学生生活はいかがでしたか?
久保さん:すごく楽しかったですね。20代だったら、きっと吸収するスピードがもっと速かったと思いますが、逆に40代だからこそ、いろんなことがわかったうえで学ぶことができるのは大きなメリットだなと。経験を重ねて着眼点も鋭くなっているぶん、学びの効率も良い気がしますね。
卒業後にすぐに子どもたちを教えられると思っていたわけではありませんでしたが、“可能性の種はまいておこう”と考えました。
「人生の先輩」は還暦を過ぎても挑戦を続けた母
── 先を見据えて、今の自分ができることを着々と準備する…大きな夢に向かってコツコツ準備を重ねる姿勢は、昔から一貫されていらっしゃいますね。
久保さん:こうした考え方は、母の影響が大きいのかなと思います。母は、もともと民放のアナウンサーだったのですが、その後、学校の英語教師になり、さらに自宅で英語教室も開くなどやりたいことを次々と実行し、みずから人生を切り開いていく人でした。
いつも、“どんな自分になりたいのか”“この先こんなことがやってみたい”と夢を語っていた姿が印象に残っています。私もその姿を見て育ったので、自然とこうした生き方になっているのかもしれません。
── 母親がみずから夢を語り、実践する姿を見せるのは、子どもにとって素晴らしい教育になりますね。バイタリティ溢れるお母様が、久保さんのロールモデルなのですね。
久保さん:
そうした意味では、近くに人生の良き先輩がいてくれたことに感謝しています。常にいろいろなことにチャレンジして、還暦を過ぎてからスキーを始めたり、ダイビングの免許をとって太極拳もやり、水泳もそこまで泳げなかったのにバタフライまでできるようになったり。本当に努力の人で、「何事も不可能はない」「継続は力なり」が口癖でした。
その影響で、私もいくつになっても、どんな状況においても新しいことは始められるし、遅いということはないんだなと実感しています。
── 子育て中のワーママにとっては、忙しくて目の前のことをこなすのに精一杯、なかなか自分の夢について考える余裕がないという声も多いです。
久保さん:気持ちはよくわかります。ただ、母親である前に、ひとりの女性としてどう生きるのかというのは、子どもたちにとって大きな影響を与えるのだろうなと感じています。ですから私自身も、常に目標を持ってチャレンジを続け、生き生きとした姿を見せていたいと思っているんです。
新しいことに挑むたびに、まだまだ知らないことがいっぱいあるんだと気づかされますし、人生はいくつになっても勉強、学びに終わりはないんだと実感しています。
PROFILE 久保純子さん
1972年、東京都生まれ。大学卒業後、NHKに10年間勤務。2004年からはフリーアナウンサーとして活動。現在はテレビやラジオに出演する傍ら、執筆活動や絵本の読み聞かせ、翻訳を手がけるほか、日本ユネスコ協会連盟の「世界寺子屋運動」の広報特使を務める。2014年にはアメリカにてモンテッソーリ教育の資格を取得。現在は、夫と2人の娘とともに、ニューヨークに在住。
取材・文/西尾英子 写真提供/久保純子