感動させたい欲が出ると面白くなくなる
── 作品では、いのちの電話の記載もありましたが、この映画自体がつらいときに見るような「いのちの電話」のような存在にも思えました。誰かの支えになればと思ったのでしょうか?
荻上監督:
まったく思いません。私、誰かのために映画作ったことは一度もないです。誰かが「人を感動させたい」とか話すのを聞くと、「本当か」と思ってしまいます。
自分が、私が、という自分のエゴイズムを出し尽くした先に、人々が見てくれて、あーだこーだ言ってくれるというのが、創作の姿勢なのだと思っています。
ゴッホが「これ描いたら次絶対売れるぜ、感動させてやるぜ」と思って絵を描いていなかったと思うんですよね。多分、そんなことが見えてしまったり欲が出てくると、面白くなくなってしまうのかなと思ってやっています。
自分自身が「置いてけぼりの人」
荻上監督:
今回、社会から置いてけぼりになった人が作品に出てきているけれど、私自身、映画をとってなかったら、すごいだめ人間で、一歩間違えるとアルコール中毒ですし、朝は起きられないし、映画が唯一、社会人としていられる武器というか、そういうものなんです。
そうでなければ、自分でも想像できないくらい落ちこぼれだし、置いてけぼりです。
日本社会って世間体、常識に囚われながら生きていかないといけなくて。「目立ったりしたら、人様になんて言われるかわからない」と意識して、自分を常に抑制しながら生きていかないといけない状態です。
そこに「そうじゃないんじゃないだろうか」ってちょっとでも疑問を持ってしまうと外れてしまう。この作品では、そこで外れてしまった人たちがここにいるんだと思います。
── あたたかい目線が作品の登場人物に注がれています。
荻上監督:
自分がそうだからなんだと思います。自分が同じだから。自分がそのなかのひとりだったりするという思いがあるからなんだと思います。
── 全作品通じて、伝えたいもの、テーマはあるのでしょうか。
荻上監督:
自分なりのユーモアを入れたいと思っています。自分の色になると思うので、別の監督さんが撮ったら、別の監督さんの色になると思います。ユーモアは私の色だと思うので、必ず入れたいと思っています。