親子間に「無償の愛」は成立するが夫婦間では難しい
そもそも子どもに対しては、明確な“テイク”がなくても“ギブ”だけで満たされる親が多いようです。「無償の愛」ですね。きっと、スポーツで疲れた娘さんに“ギブ”であるマッサージをしてあげ、子どもなりの“テイク”(元気でいてくれる、スポーツを頑張るなど)を受け取ることに、喜びを感じているのかもしれません。
ところが、もともと他人同士の夫婦となると、なかなか「無償の愛」というわけにもいきません。「あれやって、これやって」とパートナーから言われ続けると、「じゃあ、君は僕に何かしてくれているの?」と思われてしまうことも。
たとえば相談者さんは、夫にマッサージしているでしょうか。あるいはそれに匹敵する思いやりの言葉や行動を“テイク”しているでしょうか。仕事でぐったり疲れていると、相手に “テイク”の要求ばかりしがちですが、「夫にマッサージしてあげる」「いつも以上に感謝を伝える」など、こちら側から “ギブ”を提供するというのも、ひとつの方法かもしれません。
たとえば、
「毎日この子のマッサージしてくれてありがとう。私もあなたのマッサージをするね」
と、夫を労う言葉を添えるのもおすすめです。そうやって夫の心身が満たされると、「ありがとう。じゃあ今度は僕がマッサージしてあげるよ」と、いい流れにつながるかもしれません。
また、相談者さんの夫のように、「娘にだけ優しい(甘い)夫」に対する不満の声も、よく聞きます。
- 夫が娘と2人で出かけ、欲しい服を好きなだけ買ってあげていた
- 私より娘に買ってあげたアイスのほうが高かった
- ぐずる娘の言いなりになっておもちゃを買っていた
このようなムスメ溺愛系パパは、娘にエネルギーを費やすあまり、妻まで気が回らないようです。こんなときは、夫婦間のギブ&テイクの流れを妻のほうからつくってみることをおすすめします。
今回のお悩みは、男性の立場からもよく寄せられるお悩みの一つでもあります。「子どもが生まれてから、妻が僕をかまってくれなくなった」とモヤモヤする男性も多いです。ということは、「パートナーがかまってくれない」というお悩みは、男女共通のようです。
親子関係のような無償の愛ばかり求めていないか、小さな「ありがとう」が言い合えているかどうか、自分がパートナーに寂しい思いをさせていないかなど、時々立ち止まって考えることが必要かもしれません。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子