叱られたことで生産者の一人になれた気がした
── 初めておてつたびを利用されたときの印象はどのようなものだったのでしょうか。
平野さん:
最初は徳島の蘭農家さんのところにおてつたびに行きました。想像していたよりもずっと、しっかりと「仕事」という感じの作業で、「仕事なんだからしっかりやってね」と注意を受けることもあったんです。
── 注意を受けて落ち込みませんでしたか?
平野さん:
落ち込むというよりはハッとしました。「農業体験とは違う」と反省しました。「仕事」として引き受けて「お金」をもらうんだ、という緊張感が芽生え、そこからは自分も生産者の一人になれたような気持ちになれたんです。
── 自分が想像していた旅と違うな…とはならなかったのでしょうか。
平野さん:
そうですね。1人で旅をしている時は周りから「フラフラしているな」と思われることも多かったと思うのですが、「おてつたび」は、旅人を生産者にちゃんと回してくれるんです。そういう心構えや意識についてもサポートしてくれる印象です。
どれくらいお役に立てているのかは分からないけれど、繁忙期に曲がりなりにも生産者の一人になって自分でお金を稼いだ。そしてそのお金でまた自分が好きな旅ができる。
この満足感が嬉しくて、想像していた旅と違うなというよりは想像以上によかったという感じです。
── 「おてつたび」には自由時間もあると伺っています。自由時間は満喫できているのでしょうか。
平野さん:
かなり満喫できています。今まで、「おてつたび」の他にも旅先でできるバイトを経験したことがあるのですが、そこでは旅を満喫できることは正直ありませんでした。
「おてつたび」で旅を満喫できている理由は、受け入れ先の事業者さんが私たちの「旅をしたい」という気持ちをすごく理解してくれているからだと思います。「旅が好き」という気持ちをわかっているので、しっかりと時間を取ってくれますし旅人にとって嬉しい情報を教えてくれたりします。
空いている時間にササっと観光に行くのではなく、仕事もしっかりやり、旅も存分に味わう。それがしっかりできていることもリピートしている大きな理由です。
「おてつたび」の事務局の皆さんが、受け入れ先の事業者さんと利用者のニーズをしっかりと事前にすり合わせてくれているからだと思うのでありがたいです。
「近くに行ったら絶対に寄りたい」思い入れのある地域が増えた
── 「おてつたび」を利用しない旅も引き続きしていると伺いましたが、「おてつたび」が与えている影響などはありますか?
平野さん:
そうですね。今、全国を旅しようと考えているのですが、行く先の近くに自分がお手伝いをした「おてつたび先」があれば絶対に寄ります。それだけ、思い入れのある地域が増えたんだなと思います。
── 今まで体験された「おてつたび」の内容と期間を教えてください。
平野さん:
はい。徳島県の蘭農家さんでは蘭の出荷のお手伝いをしました。花を摘み、数を数え、花を詰める箱をつくり、丁寧に箱詰めをして出荷する手前まで準備するという作業を2週間行いました。
そのほか、熊本県のさつまいも農家さんでは苗キリのお手伝いを2週間。千葉県のにんじん農家さんではにんじんの根や葉を切り、収穫作業のお手伝いを2日間行いました。
── 「おてつたび」の中で苦労したことや難しさを感じたことなどがあれば教えてください。
平野さん:
おてつたびは、受け入れ先の方だけでなく、同じ時期に一緒にアルバイトをする人たちとの交流もあります。そういうときに、やはり初めて会う人なので「何を話したらいいんだろう…」と緊張してしまうことがストレスのひとつではありました。
また作業的なところでいうと、アルバイトとして任せられる作業が限られていることもあり、単純作業が2週間続いたりすると後半に疲れを感じることはよくありました。
それでも他のリゾートバイトと比べると、おてつたびは短すぎず長すぎない期間なので、中だるみをせずにフルコミットできるから、私としては助かったところはあります。
他にも、そのときどきで苦労したことは必ずあるはずなんですが、旅を終えてしまうとすべてが「いい思い出」として昇華されちゃうんで不思議だなと今思っています(笑)。