「絶対受からないと思った」と話すのはフジテレビのアナウンサーとして活躍し、現在は吉本興業に所属している久代萌美さん。人見知りだったという幼少期と、学生時代の話について伺いました(全3回中の3回)。
研究が終わらないまま就活へ
── フジテレビのアナウンサーとして仕事をしていましたが、もともとアナウンサーを目指していたのですか。
久代さん:いえ、実は就活中に、すでに大学院に行くことを決めていました。理系の大学で、研究が終わっていなかったこともありますが、周りが当たり前のように大学院に行くという環境だったんです。
でも、サークルの文系の子が就活を始める時期に、私も経験として就活というものを知ろうと。テレビ局のアナウンサーは絶対に受からないと思っていたので、とにかく就活というものにチャレンジしてみようという気持ちでした。興味のあるテレビの仕事で、いちばん採用試験が早かったアナウンサーを受けました。他の業種はまったく受けていないんです。
── そこから見事に試験に合格しました。
久代さん:受かったときは、「研究室に報告して、大学院の申し込みをキャンセルしなきゃ!」というのが先に頭に浮かびました。正直、喜びよりも焦りが先でしたね。
「ヒヨコのまま放り出された」アナウンサーの苦悩
── 実際にアナウンサーになってみて、思っていたイメージと違うと感じることはありましたか。
久代さん:社内研修もたくさんしてくださるのですが、学生時代にも特にアナウンサーとしての勉強をしてこなかったので、私みたいなド素人にはたりなくて。入る前はアナウンサーとして一人前になってからテレビに出るんだと思っていたんですけど、実際は、ヒヨコのまま放り出された感じがあってびっくりしました。
もちろん、基礎として滑舌練習はたくさんするのですが、インタビューやリポートで何を話すか、もっとたどるとピンマイクのつけ方も教えてもらわないまま現場に行って、アナウンサーとして扱われる。そこで「はい、リポートして!」と投げられるのでどうしていいのか本当にわからなかったです。
活動しながら現場のプロであるスタッフさんたちと仕事をして、現場で学んでいく。アナウンサーだからといって甘やかされることはなく、会社員として周りから学ぶというスタイルでした。
── 大学で学んだことが通用しない世界ですね。
久代さん:環境微生物研究所という研究室にいたので、微生物のなかでも環境に関するものを専門に扱っていました。そこで環境汚染や、海をきれいにしてくれる微生物を勉強して。それこそ、お台場の海なども研究していましたが、仕事で使うことはまったくなかったです(笑)。
アナウンサーのなかで、理系出身の方は片手に収まるくらいでした。言葉を仕事にしているので、気持ちを言葉に表すという意味では文系の仕事だと思うことがあります。私はどうしても理屈で話してしまうので、セオリーとしては合っていても伝わりにくい。文系の方は、気持ちを乗せて話すのが上手だなと思います。
でも、自分で模索しながら学んでいくというのは理系っぽいと思いました。トライアンドエラーで、これは違うと次々と実験していく感じです。
── アナウンサーはテレビ局の顔として見られることが多い職業かと思いますが、仕事をする上で気をつけていることはありますか。
久代さん:番組の最後を背負うのがアナウンサーなんです。でも私たちが話す前にいろんな人が積み重ねてきた取材や仕事があって、最後に立たせてもらっている。アナウンサーがしていることは全体の1%にも満たないかもしれません。
でも私たちが失敗すると、制作側の努力が報われなくなってしまうし、逆に制作側のミスも我々の責任として謝ります。みんなの分を背負って出ているので、最後の美味しいところだけを持っていくのではなく、チームの代表だということを忘れないようにと考えています。
「チャチャを入れる人に憧れていた」
── 人前に出ることはもともと得意だったのですか?
久代さん:いえ、すごく苦手でした。小さいころは恥ずかしがり屋で、人見知り。家ではおしゃべりなんですけど、一歩外に出るとお母さんの後ろに隠れてしまうような子どもでした。小学校では授業中に手を上げることもできないし、当てられてもモゴモゴして頭が真っ白になっちゃうタイプで。
中学生になって、授業中に先生にチャチャを入れるような人にすごく憧れていたんです。「なんでここで、急に大きい声で話せるんだろう、かっこいい!」と思って、実際にやってみたこともありました(笑)。
このころからは、周りには積極的な子だと思われていたかもしれないですが、内心すごくドキドキしながらしていたんです。
── 徐々に殻を破ってきたんですね。
久代さん:完全に破れたのはアナウンサー試験を受けているときでした。やけくそと言いますか、いい意味で開き直れました。周りには練習を重ねてきた子がたくさんいたので、私が緊張したら、さらに勝てる確率が下がってしまう。「緊張しても意味がない」と、あるとき吹っきれて。
待合室で他の子と待っているときはいつもの人見知りなんですけど、名前を呼ばれて一人で面接の部屋に入っていくとなぜかスイッチが入って。面接ではまったく緊張せず、ハキハキ話せていました。ここで初めて人前で話せるようになったと思います。そういう意味ではアナウンサー試験は私のなかでの転機となりました。
PROFILE 久代萌美さん
1989年東京都生まれ。首都大学東京卒業後、2012年、フジテレビにアナウンサーとして入社。「さんまのお笑い向上委員会」や「ワイドナショー」など主にバラエティ番組で活躍。2022年4月から吉本興業にアナウンサーとして所属し活躍中。
取材・文/内橋明日香 写真提供/久代萌美、吉本興業