40年遅れた日本…重い生理は「治療できる」という新常識

── 女性のヘルスケアについて海外の事情と比べるといかがですか?

 

槝之浦医師:
その点においては「まだまだ」だと日々感じています。

 

オリンピックに出場する女性アスリートのうち、欧米の選手は8割以上が月経周期をコントロールしたり、月経痛を和らげる目的でピルを服用しているのに対して、日本の女性アスリートのピルの服用率は12年のロンドンオリンピックで7%、16年のリオデジャネイロ五輪でも27%に留まっています。

 

そもそも日本で低用量ピルが認可されたのが1999年。1960年代からピルを使用していた欧米に比べて40年近い開きがあるので、その点では仕方ないのかもしれません。

 

治療という面からみても、日本で低用量ピルが月経困難症や過多月経の治療薬として保険適用されたのは2010年末、T字型の避妊リング「ミレーナ」が保険適用されたのも2016年です。

 

日本で「生理に悩んでいる方は積極的に治療しましょう!」という道が開かれたのはつい最近のことなんです。

 

── 12年前まで日本では鎮痛剤を飲むしかなかった…ということですよね。欧米との差に驚いています。

 

槝之浦医師:
以前、海外から来た方に「最終月経はいつですか?」と質問したことがあるんです。産婦人科ではお決まりの質問ですよね。

 

その方は「初潮がきてから皮膚埋め込み型の避妊用インプラントを使っているので、月経はきません。最終月経は初潮の時です」と答えられて、驚いたことがあります。この皮膚埋め込み型のインプラントは日本ではまだ承認もされていません。

 

日本では、10代の女の子がお母様と来院されて「月経困難症なのでピルを処方しますね」とお話ししても、「ピルって避妊薬ですよね?中学生なのに避妊なんて…」とお母様が首を縦に振ってくれないことがあります。10代の女の子の場合、ピルの処方に即座に同意してくれる親御さんは1割か2割といったところです。

 

ピルには気をつけたい副作用もありますが、月経困難症や過多月経に対する非常に有効な保険適用された治療法です。結局つらいのは当事者なので、日本でも生理コントロールの常識がもっとアップデートされるといいな、と思っています。

 

── せっかく治療の道が開かれたのだから、日本人女性の「我慢」が少しでも減るといいですね。

 

槝之浦医師:
その通りだと思います。「我慢せずに受診」が当たり前になり、「かかりつけの産婦人科」を持つことが普通になれば、それが結果、重い子宮筋腫や子宮内膜症の早期発見・治療にもつながると思います。

 

若い方は子宮頸がんワクチンを入り口に、ぜひ気軽に産婦人科に来てほしいですし、過多月経や重い生理痛に悩んでいる方は婦人科外来でぜひ一度相談してください。女性のヘルスケアをめぐる医療は日々進歩していますし、治療の選択肢が広がっていることをぜひ知っていただきたいですね。

 

​​PROFILE 槝之浦佳奈医師

独立行政法人国立病院機構 九州医療センター産婦人科医。日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医 日本スポーツ協会公認スポーツドクター。子宮内膜症に悩む母親をみて産婦人科医を志した。

 

取材・文/谷岡碧