「やっかいなのは生理は『人と比較できない』ことなんです。『生理はつらいもの』と我慢が当たり前になって、結果ひどい貧血になっていたり、子宮筋腫や子宮内膜症が進行しているケースがとても多い」(槝之浦佳奈医師)

 

「そういえば最近、生理が重くなっているかも」と感じることはありませんか?昼間でも夜用ナプキンをつけていたり、よく漏れたり、強い痛みがあったり。筆者である私も「ちょっと多いかも」と病院を受診したときには、重めの鉄欠乏症貧血になっていました。人と「比較できない」ゆえに「こんなものか」と身体のサインを見過ごしていた結果でした。

 

初潮が早まり、閉経は遅くなり、出産率は下がり、いわゆる「生涯月経量」が増えている現代。赤ちゃんを望まない時期に限っては、生理はある程度コントロールできる時代になっています。子宮筋腫や子宮内膜症といったトラブルを見過ごさないためにも、つらい生理は我慢しないことが「最初の一歩」。

 

九州医療センターの産婦人科医で女性ヘルスケア専門医でもある槝之浦佳奈(かしのうら・かな)医師に、生理にまつわる最新事情についてお話を聞きます。

生理は「我慢しなきゃいけない信仰」が根強い日本

── 私の場合、子宮筋腫にともなう過多月経で、受診した時には鉄欠乏症貧血になっていました。私のように症状が進行してから受診するケースは多いですか?

 

槝之浦医師:
そうですね、とても多いです。症状が少しずつ悪化した場合は「変化に気づきにくい」ということもありますが、一番の問題は生理は「人と比較できない」ことなんです。経血量が増えても、痛みが強くても「これが普通だと思っていた」とおっしゃる方が多い。

 

私は最初の診療で、痛みの程度を細かく確認したり、ナプキンの種類を伺ったりします。「昼間に夜用使ってないですか?」「1時間でナプキンがいっぱいということはないですか?」など質問させていただくうちに「普通ではないんだ」と初めて気づかれるということがよくあります。

 

また、40代に入って月経量が増える方が案外多いんです。閉経に向けて月経量が減っていくというイメージがあると思いますが、ホルモンバランスの揺らぎから、40代で一気に経血量が増える場合があります。

 

過多月経で鉄欠乏症貧血になると、日常での倦怠感はもちろん、うつ症状の原因にもなります。「最近、少し生理が重いかも」と気づいた時には、かなり症状が進んでいるケースが多いので、少しでも気になることがある場合は、ぜひ婦人科を受診してほしいです。

 

── 生理は「つらくて当たり前」という風潮も受診を遅らせる原因になっている気がします。

 

槝之浦医師:
そうですね。「女性が生理で苦しまなきゃいけない理由はなんですか?」ということを今一度冷静に考える必要があると思います。

 

生理は赤ちゃんを望む時期には必要なものですが、それ以外の時期は「つらくても痛くても多くても我慢して受け入れなくてはいけないもの」ではありません。

 

海外ではピルや避妊リング、皮下埋め込み型のインプラントを使って月経周期をコントロールしたり、月経量を減らしたり、痛みから解放されることが当たり前になっていますが、日本ではまだまだ「我慢しなきゃいけない信仰」が根強いな…と感じます。

産婦人科に行く女性のイメージイラスト(PIXTA)

──「自然なものだから」と生理をコントロールすることにためらいを感じる人も多いと思います。

 

槝之浦医師:
生理は「受精卵を迎えるために厚くなった内膜が剥がれ落ちたもの」なので、医学的・科学的な見地から見れば「赤ちゃんを望まない時期に関しては、必要ない」ものです。

 

薬を使ってホルモンバランスを保った上で生理をコントロールしても全く問題ないですし、不妊の原因にもなりません。むしろ、月経困難症や子宮内膜症に伴う痛みの抑制を目的とする場合は、排卵や痛みを伴う出血の回数はなるべく少ないほうが良いことも分かっています。

 

加えて、現代の女性は「生涯月経量」が昔に比べて段違いに多くなっています。昔は初潮も遅く、閉経も早く、若いうちからたくさん子どもを産んだので、生理のない時期が長かったんです。

 

現代の女性は単純計算で、40年間で48リットル近い血を失う計算になります。昔とは事情が変わったのだから、生理との向き合い方も「現代」に合わせた形でシフトしたらいいのではないか?というのが私の考えです。