刑務所は「生き方」をもう一度勉強する場所
── このプロジェクトが始動した背景について教えていただけますでしょうか。
山部さん:
東京藝術大学で、社会人と藝大生が一緒に福祉と芸術について学ぶプロジェクト(通称DOOR)を受講したことがきっかけです。
私は、「障がい」とは身体的な不自由さを指すことが多いのだろうと思っていたのですが、法務省の井上さんの講義のなかで受刑者の実状を知り、「障がいって身体的なものだけを指すのではなく、環境も障がいのひとつなんだ」と学びました。
また、受講前は刑務所に入るということは何かしらの罪を犯した人であり、どのような理由であってもそれは「悪」なのではないか、と正直なところ思っていたのですが、刑務所の環境を学んだことで考え方が変わってきたんです。
刑務所にもっていたイメージも、「罪を償うための場所」というイメージから「生き直しを学ぶ場所」「生き方をもう一度勉強する場所」というように変わりました。
刑務所には、本気で罪を償いたい、生まれ変わって立ち直りたいと考えている受刑者の子がいます。その姿を見て、不自由な環境を少しでも変えられる方法がないかと考えるようになりました。
受講後に一緒に学んだメンバーと話し合い、「何か自分たちにできることはないだろうか」と講師の井上さんにご連絡したことが、プロジェクトの大もとのきっかけです。
若年女子受刑者がおかれる出所後の厳しい環境
── 支援の対象を「若年女子受刑者」としている理由を教えてください。
山部さん:
まず年齢のことで言いますと、たとえば高齢の方の場合、出所後は「高齢者福祉に繋ぐ」という流れができているのですが、若い方は繋ぐところがない傾向にあります。
仕事に関する知識を習得してやり直してもらうことを考えると、私としては、まずは若い方の支援が大切だと思いました。
また、今年の4月から法律が変わり、今まで少年院に入所していた18歳、19歳の子たちが刑務所に入ることになりました。刑務所のなかであっても、なるべく出所後に役に立つ技術や知識を得る方法、社会との繋がりを感じられる方法がないかと法務省でも考えていたようです。そんなときに法務省へ声をかけさせていただき、「若者支援を一緒にしよう」と意見が一致しました。
── そのような背景があるのですね。若者のなかでも「女性」を対象としている理由も教えていただけますでしょうか。
山部さん:
犯罪を犯してしまった理由はそれぞれに異なるのですが、受刑者のなかには不自由な環境におかれ、知識がなかったことで犯罪を犯してしまった若者が少なくありません。
特に若年女子受刑者は、たとえば薬物事件で受刑している女性の70%以上が家族や配偶者からDVを受けていたり、少年院に収容されている少女の半数以上が虐待など小児期につらい体験をしているという背景があったりなど、立場の弱さや知識のなさから犯罪に加担してしまったケースが男性受給者よりも多い傾向にあると言えると思います。
女性受刑者は出所後の仕事が見つけにくい傾向にあります。そこで、刑務作業のなかで「縫製」の技術を学ぶことで、社会に出てからもその経験を活かすことができるのではないかと考え、若年女子受刑者を対象にしました。