「刑務所の人が頑張ってつくったものだから…」を「素敵な商品だから」に

── なぜ「縫製」に注目されたのでしょうか。

 

山部さん:
私はファションデザイナーなのですが、自分の経験を受刑者の出所後の仕事に繋げられないだろうかと思い、実際に刑務作業で仕上げられた製品を見てみたんです。
 

失礼を承知で正直に言うと、デザインも縫製に関しても「これでいいの?」というレベルのものでした。「この製品が店頭に並んでいても消費者は買うのだろうか…」と思ったんです。これでは「刑務所の人が頑張ってつくったもの」という、条件付きでの評価しか得られないと感じました。

 

協力してくださっているアパレル産業のプロの方が技術をしっかり教えることで、「しっかりとした素敵な商品だから欲しい」と商品の良さで選ばれるようなものになるはずだし、そうしたいと思い「縫製」に力を入れたいと思いました。

着物地で作ったワイドパンツ

── 産・官・学であるアパレル企業・法務省矯正局・東京藝大が、このプロジェクトにおいて具体的にはどのような役割を担っているのでしょうか。

 

山部さん:
まず、アパレル企業には縫製に必要な資材を提供いただいています。

 

提供いただくのは、国内の倉庫などにある行き場のない生地資材や着物などです。また、アパレル製品をつくるにはデザインとパターンと生地だけではなく、ボタンやファスナーといった副資材や、糸や針、ミシンやアイロンなどの縫製機械が必要となってきます。それらを提供いただいているほか、縫製技術を指導できる方にも参画いただいています。

 

また、法務省矯正局美祢社会復帰促進センターにはソーイングをお願いしています。若年女子受刑者とともに縫製・仕上げ・検品・納品までの一連の作業をしていただきます。

 

東京芸術大学DOORは、ファッションアートディレクションとプロモーションを担当しています。DOOR実習生と藝大生で商品開発やワークショップも企画していきます。

 

 

今ある施設や仕組み、倉庫に眠っている生地などの素材に新しい意味や価値を持たせるこのプロジェクト。企業と行政と教育を「つないで」、新しいとびらを「ひらいて」、今までの境界がアートとデザインで「にじみあう」。まさにそんなプロジェクトの内容に期待感が高まりました。

取材・文/渡部直子 写真提供/一般社団法人みとびら