「ゆっくりでいい」が子どもを傷つけることも

── そういった効果があることに想像が及んでいませんでした。知られていないのがもどかしいですね。

 

庄司さん:
病弱教育は一般の学校でもあまり理解されていないのが現状です。

 

病弱教育を利用するには、前籍校(元いた学校)から特別支援学校に一時的に籍を移す必要があります。しかし、「今は勉強ではなく治療に専念すべき。籍を移してまで勉強しなくてもいいのでは」という考えから、前籍校の理解を得られないケースは決して少なくないんです。

 

── 子どもの体を心配しているからこそ、かもしれませんね。

 

庄司さん:
そうですね。ただ、子ども自身は「入院中は勉強をどうすればいいんだろう」という不安にさいなまれています。特に、受験を控えている中高生は「自分だけが取り残されている。このままでは受験勉強も進学もできない」と強い焦りを感じていることが多いんです。

 

周囲がよかれと思って「ゆっくりでいいよ」と声をかけると、早く回復して学校に戻ることを心の支えにしている子どもは、かえって傷つくこともあります。

 

── なるほど…。そうした言葉がけをしてしまう人は多そうです。

 

庄司さん:
子どもは「自分は学校の友達に忘れられてしまう」という不安とも闘っています。そんな不安を抱えながら学校に戻ったときに、ひとりだけ勉強が遅れていると、ついていけなくて不登校になってしまう場合もあるんです。

 

なので、復帰前に病弱教育で勉強を進めておくことは本当に重要です。「入院中も頑張ったぞ」という自信がその子を支えてくれますから。

病弱教育はどこで受けられるのか

── 病弱教育は、どこで受けることができますか。

 

庄司さん:
病院内の分教室や、訪問教育といった形で受けることができます。分教室は病院内に設置された教室で学習します。訪問教育は教員が病室に出向き、授業をします。

 

本校は、聖路加国際病院等、学区として7つの区(江東区、千代田区、中央区、墨田区、台東区、江戸川区、葛飾区)にある病院の病弱教育を担当しています。

写真はイメージです

── 実績のない病院では、病弱教育を受けるのは難しいのでしょうか。

 

庄司さん:
いえ、保護者の方から病院へ希望を伝えれば、病院で授業を受けることはできます。

 

自治体にもよると思いますが、東京都の場合は、就学相談室や教育委員会に問い合わせると受けられるよう動いてくれることもあります。

 

とはいえ、実際には入院先で「うちでは病弱教育が受けられますがどうしますか」と勧められて初めて知る方がほとんどだと思います。

 

── 病弱教育の存在や意義を知っていれば、保護者は選択肢のひとつとして視野に入れた行動ができそうです。

 

庄司さん:
そう思います。

 

病弱教育は、療養中の子どもの学習と将来への希望を支えるものであり、彼らが前向きでいるために必要なもの。

 

そのことを、世間にも教育現場にも理解してもらえるよう努めていきたいですね。

 

PROFILE 庄司伸哉さん

東京都立墨東特別支援学校 校長。都立養護学校教諭、副校長、教職員研修センター統括指導主事、都立特別支援学校校長、学校経営支援担当課長等を経て、2021年4月より現職。

取材・文/小晴