カリスマ保育士として活躍するてぃ先生は、保育士としての専門性を活かして、子育ての楽しさや子どもとの向き合い方を発信するほか、保育園などへのアドバイスなども行っています。独創的なアイディアから多くの保育士や保護者から支持されているてぃ先生に、保育士を取り巻く問題について伺いました。

カリスマ保育士・てぃ先生

保育士の集団退職 その原因は

── 全国的に保育士の集団退職が相次いでいますが、てぃ先生はこの問題をどう考えていますか。

 

てぃ先生:
子どもが好きで保育士になり、保育自体に魅力はあるけど、給料も安い、労働環境も悪い、人間関係も悪いなかでこの職業を続けられるかと言ったら…。「いや、もっと自分が幸せになる方法はある」ということにみんなが気づいたんだと思います。

 

要因としては、園の問題がありますし、業界の仕組み自体も旧態依然過ぎて、今までと同じことをしていくのは時代に合っていないのだと思います。ひと昔前は、やりがいというものですべてが片づけられていました。

 

子どものため、保護者のために頑張ろうという耳触りのいい言葉でやってこられた時代もあったかと思いますが、今はひとりひとりの価値観や幸せの定義というものが多様化してきました。

 

保育業界はあまりにも「子どもは宝だ、自分たちの犠牲もいとわない」というふうにやり過ぎてしまったんだと思います。

 

── なぜ「集団」で辞めてしまうのでしょうか。

 

てぃ先生:
基本的に保育士は、子どもが好きなこともあって基本的に根が真面目で優しい人が多いんです。保護者や子どもたちに迷惑はかかるけれど、それでも自分たちが行動を起こさない限り、この園は変わらないという強い意志の表れだと僕は思っていて、同じ考えの人がいるならば一緒に辞めてそれを示そうとしているのだと思います。

保育園で子どもと接するてぃ先生

「支払われる額に対して…」保育士の不満が募る理由

── てぃ先生は、保育士が不満を抱く原因はどこにあると思いますか。

 

てぃ先生:
すべては保育士の「負担」が大きいことです。保育士たちは給料が安いというのはわかって仕事をしているんです。なんなら学生たちだって知っています。

 

保育園で働き始めて、初任給が出たときに「えっ、こんなに安いの!」と驚く人はいない。仮にこれだけ言われていて、もしそれを知らなかったら下調べ不足です。給料が安いのを知って飛び込んで、なぜ色々な不満が生まれるかと言ったら、支払われる額に対する負担が見合っていないことが原因だと思っています。

 

今年の2月から保育士などの賃金を3%程度上げるといった待遇の改善がありました。額にすると9000円ほどです。しかも一律で上がるわけではなく、使い方は事業者に委ねられています。もちろん上がったら嬉しいのですが、正直、この金額が増えたところで、今のこの保育士不足や集団退職問題が解決できるかと言ったら絶対できません。

 

大切なことなので、待遇面を改善する議論は続ける必要はありますが、その場限りの対処では解決しない問題だと思っています。

 

── 待遇に見合っていない保育士の負担というのは、具体的にどんなことでしょうか。

 

てぃ先生:
行うことに意味がある業務だったら保育士は納得できると思うんですが、「これって本当に必要?」ということがあまりにも多いです。

 

この時期ですと、例えば園内の壁に画用紙で作った、目隠しをしたクマのスイカ割りの飾りなどが貼ってあります。

 

壁面装飾というのですが、講演会で保育士になぜこれをしているか質問すると、みなさん「お部屋が楽しそうに見える」、「季節感を味わえる」などと答えます。でも、お部屋を明るくしたり、季節を味わったりする方法は、画用紙を切って貼って手作りするだけじゃないです。

 

もちろん、業務に余裕があって、子どもたちのためにと思ってするのならばいいのですが、これだけ業務がひっ迫して、保育士が辞めたいくらい負担が大きいなかで続ける必要はないと思いませんか。

保育園などで見かける壁の装飾のイメージ

── 当然のように見かけるもので、疑問に思ったこともありませんでした。

 

てぃ先生:
今はだんだんと子どもたちが日々描いた絵や制作物を貼ったりする方向に変わりつつあるのですが、僕はそれでいいと思っています。でも、なかなかそれを一律にはできない業界なんです。

 

「今までやってきたから今年もやらなきゃ」とか「これを作るのは新卒の仕事だ」ということにこだわる園長や経営者もいます。僕は、仮にせっかく作ったのなら、ラミネート加工などをして来年も同じものを貼ればいいと思っています。でも、毎年いちから新しいものを作ることにこだわる方も多いです。

 

── 壁の装飾は保護者も目にしますが、このほか目に見えないところにある保育士の負担があれば教えてください。

 

てぃ先生:
とにかく書類業務全般がそうです。年間の指導計画書からはじまり、月ごと、週ごと、日ごとの指導計画書があります。それにプラスして毎日の連絡帳や行事の計画書、怪我があれば怪我の報告書など、他にも書ききれないほどの書類業務があります。

 

例えば避難訓練を月に1回するのですが、この計画書もいちから書く園が多くあります。去年と同じもので、子どもの状況に合わせて変更が必要な箇所を修正すればいいと思うのですが、事務書類の多くでこういう事態が起きているのが現状です。それに追われるくらいだったら目の前の子どもたちに向き合った方がいいと思うんです。

現役保育士として現場に立つこともあるてぃ先生

ほんの少しかもしれないけど負担の軽減になって、心と時間にも余裕ができて、ストレスも少なくなる。そうしていくと、余裕のある保育ができて楽しくなるといういい循環になると思います。

 

「これは本当に今、保育士がやらなきゃいけないこと?」というのをどんどん見直していけば、少しは保育士が辞めることへの歯止めになると思います。