「小学生の息子が帰ってきたら心中しようと思います」

── コロナ禍になりましたが、女性からの相談も多いですか?

 

篠原さん:
女性からの相談も増えましたね。相談が多いのは、シングルマザーの方ですね。「お金を貸してください」と。

 

お金をあげる相談には乗れないというと、「結局、救ってくれないんですね」というので、「物理的には救えないが、そういう状況から解放される工夫は一緒にしましょう」と伝えて、生活保護申請を手伝います。

 

経済的貧困と教育の貧困は繋がっていますね。字が書けない人もいます。失業や離婚による相談も多いんです。

 

ある女性から、「今日、私は小学生の息子が学校から帰ってきたら心中しようと思います」と電話がありました。私が「何があったの」と聞くと、「息子は昨日まで、給食で飢えをしのいでいた。私はずっと水を飲んで過ごしています。もう無理です」という。

 

じゃあ近くの行政に話したらどうかというと、「私は字も書けないし、話もできないから無理です」と言って聞かない。

 

「だから、息子さんが帰ってきたら食料がないから川に飛び込むのか」と私が聞くと「はい」というので、「そんなことする必要ないよ。あなたの家の近くに住んでいる私の知り合いの住職があなたのところへ行くから待っていなさい」と伝えました。

 

結局、知人が同行して生活保護の申請をし、今は元気に暮らしています。

 

日本の社会には、相談窓口もあるけれど、正直に言って、一緒に生活保護を受ける交渉までしてくれるところが少ないんですね。そのフォローは必要だと思っています。

 

PROFILE 篠原鋭一さん

1944(昭和19年)兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。NPO法人自殺防止ネットワーク風代表。

 

取材・文/天野佳代子 写真提供(プロフィール)/篠原鋭一 イメージ写真/PIXTA