自死も考える悩める人々の駆け込み寺として約30年活動を続けてきた千葉県成田市、長寿院の住職・篠原鋭一さん(77)。これまでの人生の中で二度ほど自分の命を周りの人に救ってもらった経験があるという篠原さん。救われた命で今度は、困難に直面している人の苦悩をできるだけ遠ざけたいと思い、活動を続けている。
※本記事は「自殺」などに関する描写が出てきます。ご体調によっては、ご自身の心身に影響を与える可能性がありますので、閲覧する際はご注意ください。
「また今度ね」はだめ。必ず次の約束を作る
── お話を伺うときに注意されていることはあるのでしょうか。
篠原さん:
電話がきたら、「また今度かけてください」とは言わないようにしています。時間を指定し「明日の2時にかけてきて」と言ってきります。
そうすると、かけてくるんです。
今、生きるか死ぬか、という思いを持っている方もね、ちゃんとかけてくれるんです。
夜中の2時に電話がかかってきて、「もう今死にます」というときに「ちょっと待ってよと、一回眠ってよ、きっと疲れていると思うね」と諭す。そして「朝7時に電話ちょうだい」というと、必ず7時に電話が来るんです。そこからやりとりを繰り返しています。
今、自治体も自殺相談などの窓口を開いているけれど、通じないという声が非常にありますね。
私も1回に何時間も話していられないから、「今日は40分間聞きますよ」と時間を区切って聞いています。
私と関わった時点で変化は生まれている「もう一人じゃない」
── 住職に電話してくる方の抱えている悩みはどういったものなのでしょうか。
篠原さん:
みなさん、孤立してるんです。自分と自分以外の人の関係が断絶してしまっている人が多い。周りが自分に対して、目を向けてくれないっていう思いがありますね。日本は孤立社会じゃないかなと思います。
人間関係が非常に薄くなって、家族の中でも孤立を感じるようになっている。
── 孤立社会、そんな中を生きる人にどんな言葉をかけていくのでしょう。
篠原さん:
若い人も、高齢者も「人間関係が上手くいかない」と呟きます。「私はひとりぼっちだ。生きていけない」と。
私はそのとき「それは違う。私のところにいらっしゃい」と呼びます。または私から迎えに行きます。
それでも「俺はどうせひとりぼっちです」とか言って聞かないんですね。
私は「今日からあなたは、ひとりじゃないよ。だって、私と会ったじゃないですか。今日から私とあなたは友だちだ。お互い全然違うけれど、友だちだ」と伝えます。
すると、わーっと泣くんですね。いつでも私の寺に出入りしていい、電話してきていいんだと言うと、泣くんです。
そういうやりとりを繰り返して、元気になって巣立っていった人たちはたくさんいます。
おじいちゃん、おばあちゃんも「私はもうどうせ面倒もみてもらえない人間ですから、住職さん、死んでもよろしいでしょうか」と電話してくる。
私は「それは違うでしょう。どう生きるか工夫しましょう」と話すんです。街へ出れば、人間が生きている以上、誰とも縁がない社会なんてあり得ないんですから。