約10年前に大阪府豊中市で産声を上げた、抱っこ紐収納カバー専門店「ルカコ」。ここを立ち上げたのは、2児のお母さんでもある仙田忍さん。抱っこ紐収納カバーを通して、多くの育児で困っている人たちを助けてきました。現在も第一線で活躍し続ける代表の仙田忍さんに、子育てと働くことの両立で悩んだこと、仙田さんが目指す働き方について伺いました。
育児をしながら働ける場所がなかった
── 仙田さんはかつて歯科衛生士として働いていたと伺いました。今、「抱っこ紐収納カバー専門店」を生業にしているのはどうしてですか?
仙田さん:
以前は、歯科衛生士として8年働いていました。結婚してから不妊治療をすることになり、フルタイムの仕事と治療の両立が難しくなり退職しました。
その後、2人の子どもを無事授かり出産。いざ働こうと思ったら、待機児童が多く保育園に入ることが難しいことがわかりました。 夫は単身赴任で、実家も遠い。保育園に預けるには週5日6時間以上、1か月働いたという証明書を出す必要があったのですが、「その1か月、子どもを誰に預ければいいの~! 」って叫びたい気分でした(泣)。
── それは叫びたくなりますね。
仙田さん:
子どももかわいいし、少しでもそばにいてあげたいという気持ちもあったので、外に働きに出ることは諦めて、家でやりたいことをやろうと。元々、手芸が好きだったので、何か作ろうと思ったときに目に留まったのが「抱っこ紐」でした。
抱っこ紐を使ったことのある方ならわかると思うのですが、抱っこ紐って、子育ての必需品ですが、子どもを抱っこしていないときは、肩ひもが「だら〜ん」とぶら下がって邪魔だし、カッコ悪い(笑)。
エコバッグを持ち歩いて、使わないときはそこにしまうなどの工夫もしましたが、いまいちしっくりこない。それならば自分で収納カバーをつくろうと、抱っこ紐につけっぱなしにできる収納カバーを作りました。
できた収納カバーを身内や友人にもプレゼントしたところ、徐々に口コミで広がり、「欲しい!」と言ってくれるママが一人、二人…と増えて。ネット販売をスタートしました。
── 最初は事業資金5万円でスタートしたと聞きました。
仙田さん:
そうですね。おこづかいを貯めて5万円ではじめました。 内訳は、生地代や自社サイトの運用費、打合せ・セミナーに子どもを有料保育施設に預けるための保育料ですね。
「起業しよう!」と思ってはじめたというより、その時その時でできることをした感じですね。「とりあえず始めてみて、月10万くらい稼げたらいいな。万が一うまくいかなくても、元手の5万円は勉強代」という気持ちでまずはやってみようと思いました。
── 実際に販売してみていかがでしたか?
仙田さん:
すごい反響でした。全国に私と同じように悩んでいたお母さん方がいたのでしょう。「選べる楽しさ」を加えたのも良かったかもしれません。いろいろなデザインの布を使って100柄以上作りました。好みは人それぞれですし、個性を大切にしつつおしゃれを楽しめるようにしました。個人だからこそできることを最大限にコツコツやっていった感じですね。
しかし、1年ほどで縫製や発送など、運営が一人では追いつかなくなり、一緒に働いてくれるスタッフを募集しました。私と同じように働きたいけれど、条件が叶わず悩んでいるママはたくさんいるはず、と思ったので、たとえば幼稚園の早帰りにも間に合う、10時〜13時枠なら働きやすいのではと思い募集してみたら、なんと70人もの応募がありました。
そこから30人を採用しました。一人ひとりは短時間の勤務ですが、たくさんのスタッフがいることで子どもの熱や、家庭の予定にあわせた出勤をお互い助け合うなかで調整できますし、みんなママなので気を遣わずに休むこともできます。近くにビルを借り、裁縫やお客様対応、発送などの業務のなかから、それぞれが得意な分野を担当してもらうことにしました。
── いきなり30人も採用とはすごいですね。
仙田さん:
確かに今思えばそうですね(笑)。 すでに売り上げも月数百万になっていて、人手がたりなくて困っていたので本当に助かりました。同じ境遇のお母さんたちの力になりたい気持ちもありました。
でも、実はここからが大変でした。ある日、税務署からその年の納税通知書が来たんです。その税金の額にひっくり返りそうになりまして。
2013年に個人事業主として開業届は提出しましたが、ビジネスのことはまったくわかっておらず、これはまずいぞ、と慌てて経営の勉強をはじめました。 もっと設備を整えたり、スタッフが働きやすい環境にすることにお金を使おうと、2015年に法人化しました。