「我慢するよりも大事なこと」が夫婦にはある

「疑いを持ったなら、その時点で言ってほしいと妻には言ったのですが」。妻は「でも…」とうなだれていたそうです。

 

妻は「あなたが忙しそうだったし、機嫌を損ねられたら嫌だから」と。でも、ナオヤさんは妻から何か言われたとき、不機嫌に振る舞った記憶がありません。

 

「今日、お隣さんがあなたを見かけたって、とひと言あれば、ああ、あの先の会社に行ったんだよと言って、終わる話じゃないですか?

 

でもじっくり妻に聞いたら、『それも言い訳かもしれない』って。疑いだしたらキリがないよと言いました。

 

それ以来、『何か不安なことがあったらすぐに言ってほしい』と伝えたんです」

 

電話をためらうなら、帰宅してから話してもいいし、LINEでもいいとナオヤさんは諭します。「その日のうちにはきみの疑いを解くから」と。

 

言いたいことを我慢していると、ある日、爆発して大喧嘩になる話はよく耳にします。

 

自分だけが我慢しているという思いが、憶測や想像をドス黒いものに変えていくのかもしれません。

 

「これからも夫婦である限り、“こんなことを言ってもいいのか”と考えていたら、やっていけない。もっとオープンに“言いたいことを言おう”と提案しました」

 

それを機にナオヤさんは、「何でも言える雰囲気をつくるのも大事なのかな」と考えるようになったそうです。

 

育休中で子どもと2人きりの時間を過ごす妻のストレスを配慮しようと思っています。

 

「ふと思ったんです。夫婦が長くうまくやっていくには、相手を信じる能力が必要なのではないか、と。

 

信じることって、できそうで意外と難しい。この先、僕たちがどこまで相手を信じていけるのかは重要ですよね。

 

子どもに対してもそうなのかもしれない。僕自身も信じる能力を高めていければと思っています」

 

何があっても信じること。たしかに難しそうですが、30年後に「笑っていられる関係」を目指したい、とナオヤさんはまじめな顔で話しました。

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。