迷ったときは判断を保留する
—— フェイクニュースを信じてしまうと、どのような危険性がありますか?
小木曽さん:
世の中が間違った方向に向かってしまう可能性があります。たとえば選挙期間中に特定の候補者を陥れるようなフェイクニュースが拡散し、それを多くの人が信じてしまったら?民主主義の根幹である選挙の結果が、ウソによって捻じ曲げられてしまうことになるでしょう。これはとんでもないことです。
無論、そんなフェイクを発信すれば、罪に問われるのはもちろん、場合によっては「拡散」や「リツイート」ですら責任を負わされる可能性もゼロではありません。家族、友人、職場などの信頼、社会的立場を失うのは言うまでもないでしょう。

—— 間違った情報を信じてしまい、大事件に発展した事例はありますか?
小木曽さん:
有名なものは、大統領選挙の期間中にアメリカ国内で起きた「ピザゲート事件」です。「首都ワシントンのピザ店が小児性愛と児童売春の拠点になっており、民主党がそれに関わっている」という偽情報が拡散。それを信じた人がピザ店に押し入り、ライフル銃を発砲したのです。
犯人はネット上に拡散するさまざまなフェイクニュースを読むうちに、ピザ店に子どもが囚われていると信じ込んでしまい、犯行に及んだそうですが、無論そんな子どもはいませんでした。
—— フェイクニュースが発砲事件を引き起こすとは恐ろしいです。
小木曽さん:
そう考えると、拡散する前に踏みとどまり、ひと呼吸おいて、自分をどれだけ客観視できるか、ここがポイントでしょう。そして何より、判断できない場合は無理に判断せず保留する、「保留力」が重要になってくるのです。
—— 「保留力」とは?
小木曽さん:
たとえばネットに書かれた新型コロナウイルスの「ビックリ情報」を目にしたとき、果たして自分は真偽を判断するための科学的知識を持っているか?海外の論文が添えられているけど、その論文は誰が翻訳したのか?正しく訳されているか?自分は専門分野論文を読み解くだけの経験を積んでいるか…。このように立ち止まって考えたとき、自信をもってYESと言える人はごく一部のはず。
だったらいったん立ち止まろう。急いで決めないで「保留」しよう。そうすれば拡散も起きません。そうすれば、もしその情報が間違っていても、世の中に広まることはありません。
情報とは、人から人に伝わることで初めて「情報」になりえます。言い換えれば、地球上に人間がいなかったら、フェイクニュースどころか情報すら生まれないのです。
「すべての情報は人間が作り出している」、これをしっかり意識して、一人ひとりが「フェイクニュースの防波堤」であることを意識することで、悪意のある嘘やくだらないデマが広がりにくい社会をつくり出せるのではと思っています。
PROFILE 小木曽健さん

国際大学GLOCOM客員研究員。講演やメディア出演などを通じて「ネットで絶対に失敗しない方法」を伝えている。全国の企業・学校等で40万人、2000回以上の講演実績。『ネットで勝つ情報リテラシー』(ちくま新書)など、フェイクニュースに関する著書も多数。
取材・文/酒井明子