「ゆっくりしていきなね」から始まる村の交流
── 具体的にはどのような生活を送るのでしょうか。
森田さん:
宿泊先はシェアハウスになっており、日中の活動場所は室内だと「ムラカラBASE」というセンターになります。ムラカラの大きな特徴として、活動場所はセンターだけでなく「下北山村全体」が活動の舞台となっています。なので村全体を使って生活を送っています。
また、メンタルケアのプロであるスタッフが利用者一人ひとりと丁寧に向き合い、課題感や希望に合わせてプログラムを一緒に考えていくので、利用者によって少しずつ生活は変わってきます。
ただ、健康に大切なのは「運動」「睡眠」「食事」なので、まずは皆さん生活リズムを整えて、体力を回復させることから始まります。夜に自然と眠気が出るように、午前中に体を動かしたり、食でいうと、村でとれた野菜をふんだんに使った料理を食べるなどしています。
また、その方の体調に合わせてにはなりますが、一緒に過ごす他の利用者さんやスタッフ、そして下北山村の村民の方々と交流する機会を積極的につくっています。そうすることでコミュニケーションスキルの向上や回復に繋がっています。
コミュニケーションに関しては、下北山村のみなさんの偏見をもたない大らかな人柄や「ゆっくりしていきなね」という言葉に利用者も私たちもとても助けられていますね。
そのような方々がいる自然豊かな安心できる場所で、心と体の土台が整ってくると自分を客観的に見られるようになっていきます。なので、次のステップに進む前に基本的なところをしっかりと整えています。
復帰のための多様なトレーニング内容とは
── コミュニケーションをとることが必要不可欠な共同生活の中では、ストレスを覚える利用者も多いのでしょうか。
森田さん:
そうですね。共同生活の中では、目を背けることやはぐらかすことができないような、自分の「素」の部分が出てくることが多々あります。それを、私たちは「自分に合ったストレス対処法を知るためのチャンス」だと考えています。
そのようなときこそ自分に無理のない生きやすい方法を模索するチャンス。その体験を通して自分を知り、自分に合った対人力を身につける機会にしています。
ムラカラの母体である「株式会社リヴァ」は、ムラカラの他にも「リヴァトレ」というより良い復職・再就職を目指したトレーニングサービスを提供しているのですが、そこではうつ病などを抱えていた方が10年間で1000名以上復帰しています。
メンタルケアのプロのサポートのもと、リヴァトレで提供している再発予防のためのストレス対処法習得プログラムなどのノウハウを活用し、利用者と一緒にしっかりと丁寧に課題に向き合えることもムラカラの強みのひとつだと思っています。
── 森田さんが利用者の方と関わるうえで大切にしていることは何でしょうか。
森田さん:
全身全霊で話を聴くことに集中しています。自分の判断を一旦挟まずに、まずはその方の心の内をそのまま知ろうという気持ちで向き合っています。
── 回復されてきた方はどのようなステップに進むのでしょうか。
森田さん:
はい。ステップが進んでいくと、自分と向き合うだけでなく、活動を共にする他利用者とともに、意見を交換しながら様々な取り組みをしていきます。例えば、畑作業一つとっても、専門家が全くいない中で、スタッフもほとんど助言せず、自分たちで作付け計画や害虫対策など、調べながら試行錯誤して取り組んだりしています。このような取り組みは、仕事において、未知の課題に遭遇したときの取り組み方のトレーニングにつながっていきます。
また、村で活躍するさまざまな背景をもつ方の話を聞き、自分の今後の生き方・働き方を考えていきます。
ここからはキャリア系プログラムに移り、自分の強みを探って未来を具体的に描き、次のステージに合わせて生活リズムを整えていきます。
卒業後に都市部に戻る予定の方に関しては、いきなり下北山村から都市部に戻ることに対し不安も大きいと思うので、復帰前に都市部に行く機会を増やし、復帰先のモードに切り替える準備をしていきます。
先ほどお伝えした「リヴァトレ」は通所できるセンターになっており、関東や東北にあるので、復帰前の準備期間や復帰後などに、リヴァトレでサポートできることも利用者の不安解消に繋がっていると思います。
また、復帰した時に想定されるトラブルやストレスに対しての具体的な対策も一緒に考えていきます。
利用者の変化とスタッフの想い
── みなさんムラカラを卒業された後はどのようなステージに進まれるのでしょうか。
森田さん:
休職中の元の職場に復職する方や、転職される方、下北山村の生活が自分に合っているということで村で再就職される方などさまざまです。
復帰後は新生活をオンラインミーティングや面談でサポートしているのですが、利用されていた方の元気そうな顔を見ると私たちも嬉しく思います。
── 実際に利用された方にはどのような変化があるのでしょうか。
森田さん:
最初は常に体に力が入っていて「気を張っているんだな」と思っていた方が、プログラムを通して入りすぎていた力を上手に抜いていく様子や、活き活きとした表情に変化していく様子が見られた時にとても嬉しく思います。
また、下北山村の大自然の中で人と関わることで、自分らしく生き、時には人に頼ることの大切さに気付く姿を見てきました。
復帰後に「家族に自分の気持ちを伝えられるようになり、良い関係が築けるようになった」という声もいただき、そんな姿が私たちの力にもなっています。
── 今後の展望を教えてください。
森田さん:
はい。今後、「未病」という観点で、企業などにお勤めの方に対して、下北山村のフィールドを活用しながら心の仕組みや「自分自身を知ること」についてのご支援ができればと考えています。
また、今辛い気持ちでいる一人でも多くの方が再スタートできるよう、ムラカラという選択肢があることを周知していきたいと思います。
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穏やかに、丁寧に言葉を紡ぐ森田さんに終始安心感をもらえるインタビューとなりました。次回は、地方創生の観点からムラカラについてお伝えします。
取材・文/渡部直子 写真提供/ムラカラ