「よくきたね」「ゆっくりしていきな」が自然に出る村

 ── 下北山村でサービスを開始するにあたり、苦労された点はありますでしょうか。

森田さん:

さまざまな不安はあったのですが、今すぐに苦労したことが思いつかないほど、すべてがスムーズにいったように思います。

 

少し不安に思っていた村の方々の反応もとてもあたたかいものでした。利用者に対しても私たちに対しても「よくきたね」「ゆっくりしていったらいいよ」と偏見なく声をかけていただくなど、あたたかく受け入れてくださいました。

 

自然も人のあたたかさもすべて含めて、思い描いていた以上のものでした。

森田さん

 

── それは利用者にとってもありがたいことですね。偏見がないというのは下北山村の方々の気質もあるのでしょうか。

 

森田さん:

下北山村は修験道と縁のある地で、各地方から来て、山へ籠もって厳しい修行を行う修験者さんを村の方はもてなしていたようです。また、和歌山県や三重県と接していることもあり、さまざまな方を受け入れていた歴史があることや、さまざまな方が行き交う場所であることも村の方々の寛容さと関係があるかもしれません。

丁寧なコミュニケーションの積み重ねがスムーズな開所につながった

── 下北山村役場の和田さんにも伺いたいのですが、下北山村サイドとしては、ムラカラが村に開所することをどのように捉えていたのでしょうか。

和田さん

 

和田さん:

うつ病で苦しんでいる方が増加していることは大きな社会問題ですし、苦しんでいる方々が下北山村をフィールドにして社会復帰できるのであれば、とても意義のあることだと思いました。

 

また、スムーズに進んだ背景としては、森田さんが仰ったように、下北山村は、昔から様々な人を受け入れてきた歴史があり、そう言ったことから交流を大事にする土壌が整っていたこともひとつあるかもしれません。

 

それでも、そこにはリヴァさん、そして森田さんの想いや努力がやはり大きく関係していると思います。というのも、もしリヴァさんが突然村に来て「開所します!」とムラカラを開いていたら、地域との隔たりが生まれていた可能性があると思うんです。

 

森田さんは「ムラカラ」の開所まで3年ほど東京から下北山村に通われて、徐々に、そして自然に地域に入ってくれていました。

 

たとえば休みの日には村の子どもたちを対象にフットサルスクールなども開いてくれました。そこに参加した親子と会話が生まれたことで、村民にとってはムラカラがどういうところなのか、どういう人がいるのかを知る機会になったと思います。

 

リヴァの方々が村の人と丁寧なコミュニケーションを図ってくれているのが伝わりました。

 

正直なことを言うと、僕も少し村の人の反応を心配していたところはあったんですが、そういった下地があったからこそ、問題なくスムーズに開所に繋がったのだと思います。

下北山村の木漏れ日

── コミュニケーションの積み重ねが、都市部と地方を繋ぐハードルを下げたのですね。

 

和田さん:

そうですね。実際に下北山村に訪れて、村の空気感、文化、そして村の人たちの人柄を肌で感じてくれたことは、大きな信頼に繋がったように思います。そして、奈良県の職員の方がリヴァさんに会いに東京に足を運び、打ち合わせを重ねて三者協定を結んだことも、スムーズに開所にいたった大きな理由のひとつかと思います。

下北山村サイドに生まれた嬉しい好循環

 ── ムラカラが下北山村に開所したことによって、下北山村にはどのようなメリットがありましたか。

 

和田さん:

まず、雇用において嬉しいことがありました。ムラカラを卒業された方には、都市部での職場復帰、転職、など様々な選択肢があるのですが、その中の数名が、下北山村に移住し働いてくれています。これは、ムラカラでの生活の中で下北山村を好きになってくれたことはもちろん嬉しいのですが、人口が減ってきている村としてとてもありがたいことです。

 

また、活用し切れていなかった村の公共施設を、活動拠点としてムラカラに活用いただいていることも村として大きなメリットになっています。ムラカラのスタッフの方々も空き家だった物件に住まわれるなど、スペースにおいても人口においても、とても良い循環ができていると感じています。

語り合う利用者

ほかには、先ほどお話ししたフットサルイベントなどを現在もムラカラのスタッフの方が開いてくれることで、多世代が交流する機会が生まれていますね。

 

そのようにさまざまなメリットはあるのですが、下北山村で過ごしたムラカラの方が、この地域を知り「居心地が良いからここに住みたい」と言ってくれることが本当に嬉しく思うんです。

「交通の面など、たしかに不便な村だと思います。それでも誰かにとっては不便の中に利便性を見出せる村だと思っています」そう語る和田さんと、不便の中に多くの方の利便性を見出した森田さん。下北山村とムラカラの信頼関係からも、地方創生のヒントが見えた取材となりました。

 取材・文/渡部直子 写真提供/ムラカラ