「介護脱毛」という言葉をご存じですか?これは「自分の老後を想定し、将来介護される立場になったときに、清拭や排せつ後のふき取りなどの際、第三者の介護者に負担とならないよう、あらかじめデリケートゾーン(Vライン、Iライン、Oライン)の脱毛をしておく」こと。

 

数年前から話題になり、今では男女問わず、将来訪れるであろう自身の介護生活に備えて始める人が増えているようです。最近では、人気の女性お笑いタレントが情報番組で「介護脱毛」に触れたことからも、その関心の高さがうかがえます。

 

なぜ「介護脱毛」が関心を集めているのか、果たして本当に必要なのか?皮膚科専門医である銀座ケイスキンクリニック院長の慶田朋子(けいだ・ともこ)さんにお話を伺いました。

介護脱毛は「介護される側のエチケット」

── 「介護脱毛」はここのところ、介護生活の準備のひとつとして浸透しつつあるようです。なぜ認知度が高まっているのでしょうか。

 

慶田さん:

メディアで取り上げられたのが大きいと思います。レーザー脱毛自体は、まずは脇が注目されて、快適さが認められる形で他の部位へと広がり、デリケートゾーンも意識する女性が増えてきました。

 

「介護脱毛」については、私は10数年前から必要性を発信していました。ようやく時代が追いついたように感じますね。

 

銀座ケイスキンクリニックでの施術数をみると、2017年を1とすると、2018年は1.71倍、2019年は2.41倍、2020年は6.24倍(40代以上が約半数)と大きく伸び、2021年は横ばいでした。エチケットのひとつとして定着しつつあるように思います。

スキンケアをしている女性のイメージ
写真はイメージです

赤ちゃんだけでなく高齢者にも「おむつかぶれ」は起こる

── 慶田さんは、介護療養型の病院に勤務された経験があるそうですね。当時、皮膚科医として患者さんと接するなかで、介護に向けた脱毛が必要だと感じられたのでしょうか。

 

慶田さん:

そうですね。デリケートゾーンは脱毛をしていたほうが、介護する側も介護される側もラクだなという実感はありました。

 

介護生活ではおむつをつける方が多いですが、たとえば寝たきりの状態になると1日数回、決まった回数しかおむつを替えることができません。おむつを替えるときにデリケートゾーンが脱毛されていない状態だと、尿や便など汚れがこびりついてお手入れに時間がかかるうえ、肌が荒れる原因にもなります。

 

おむつかぶれは、赤ちゃんだけではなく、清潔感を保つことが難しい高齢者にも起こります。それに赤ちゃんは尿の量が少ないし、1日に何度もおむつを替える場合が多いですが、大人の場合は尿の量が多いわりに頻繁にはおむつを替えることは難しいのが現状です。必然的に肌荒れが起きやすくなる環境にあるんですね。もし皮膚炎を起こすと感染症につながるリスクもあります。

 

「介護脱毛」を意識するのは、「洗いやすい」「お手入れをしやすい」といった介護する側の人に対するエチケットという意味だけではなく、ご本人の健康を守るためにも大事なことだと思います。

 

今、介護の現場では「デリケートゾーンは除毛された状態のほうが皮膚のためにも良い」と認識され始めています。

デリケートゾーンには皮膚炎、皮膚がんが隠れている可能性も

── 「介護脱毛」に関しては、若い人より40代以上の女性を中心に浸透しているようですね。

 

慶田さん:

やはり40代になると介護が現実味を帯びてくるので、自分が介護される立場になったときに、気持ちよく介護してもらえるように、という思いが出てくるのではないでしょうか。そうすると自分のストレスも軽減されますよね。

 

── 「介護脱毛」することで、介護の方法が変わってくることはあるのでしょうか。

 

慶田さん:

介護のプロに依頼すれば、デリケートゾーンの状態に関わらずプロの仕事をしてくれると思います。ただ、もし一人あたりにかけられる時間が同じだとしたら、より丁寧にケアできるかもしれません。

 

── 最近、「介護脱毛」をする女性が増えている傾向について、皮膚科医の立場から何か感じることはありますか?

 

慶田さん:

皮膚科医としては、「介護脱毛」をきっかけにデリケートゾーンに目を向けてもらうことはとてもいいことだと思っています。じつはデリケートゾーンは、皮膚炎、皮膚がんなどいろいろな病気が起きやすい箇所なんです。

 

私は、施術前には必ず皮膚の診察をしていますが、「介護脱毛」が施された状態で皮膚を診られるようになると、「これはなんだろう」と変化に気づきやすくなります。

 

── とはいえ、デリケートゾーンの脱毛は、正直恥ずかしいのですが…。

 

慶田さん:

そうおっしゃる方は多いですよ。ただ、皮膚科医としては、デリケートゾーンの診察はとても大事なこととして力を注いでいます。外性器の肌トラブルなどは婦人科だと思われる方が多いのですが、本来は皮膚科で診るところなんです。

 

赤ちゃんから高齢の方まで、皮膚科医はデリケートゾーンの診察に慣れています。だから、恥ずかしがる必要は一切ありません。施術前の診察で「部分的に残したい」などのご相談にも応じていますので、遠慮なく来院してほしいですね。