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“性教育は気まずい”なんてナンセンス?「いのちの授業」にかける1人の助産師の思い

子育て

2021.02.19

直井亜紀さん

普段は仲良し親子なのに、ひとたび「性の話」となると、なんだか気まずさが漂う──。“何をどう伝えればいいのかわからない”“学校の授業で教えてくれるよね…”と、ちょっぴり及び腰になるママも少なくないのでは?そもそも大人である私たち自身が、“性教育とは何なのか”を実はよくわかっていないのが原因かもしれません。

 

今回紹介するのは、助産師として26年のキャリアを持ち、これまで約5万人のママたちの育児相談に携わってきた直井亜紀さん。10年前から小・中学校で、命の大切さや性について考える「いのちの授業」を行ってきました。その内容は、私たちが漠然と抱いてきた「性教育」のイメージを大きく覆すもの。温かいメッセージに心を揺り動かれ、泣き出す子どもも多いのだそう。第1回目は、そんな「いのちの授業」の内容をダイジェストで紹介します!

そもそも“性教育”って何?頭で描くイメージは千差万別

── “性教育は大事”だと、頭ではわかっているものの、“どう切り出せばいいの?”“なにを伝えればいいのかわからない…”と思い悩むママたちの声をしばしば耳にします。

 

直井さん:

そもそも性教育というもの自体が、なんだか漠然としていますよね。ちなみに“性教育”と聞いて、何をイメージされますか?

 

── う〜ん。セックスとか避妊、ですかね…。

 

直井さん:

実は、この質問をすると、みなさんたいてい違う答えをおっしゃるんです。ある人にとっては生理だったり、別の人にとっては妊娠や出産、セックス、あるいはLGBTQという人もいる。ひとくちに性教育といっても、それぞれが頭で思い描くイメージはバラバラなんですね。

 

── 言われてみると確かにそうかも…。でも、なぜこうした違いが生まれるのでしょうか?

 

直井さん:

本来、小・中学校に“性教育”という科目はないんです。学校によっては、保健体育や道徳、家庭科などで行っているため、学校の考え方によって違いが生じているのが現状です。さらに、それぞれの先生たちが考える性教育があり、教え方も違う。ですから、私たちがイメージする性教育にバラつきがあるのも当然だといえます。

 

私の考える性教育は、まず「自分を大切に」という1本の太い幹があります。その枝葉にあたるのが、命の大切さ、生理やセックス、避妊、LGBTQなど、知識の部分。根幹は「性の健康教育」であり、人権教育だと思っています。 

「いのちの授業」で伝えるのは“主人公は自分”ということ

── 性教育のイメージがなんだか曖昧なのは、そうした実情があるのですね。小・中学生に向けて命の大切さや性のついて考える「いのちの授業」を10年間行っていらっしゃるそうですが、どんなことを教えるのですか?

 

直井さん:

最初に必ず伝えるのが、「これは絶対にみんなが体験していることだよ」ということ。そして、「お母さんのおなかの中でどれくらいの大きさから命が始まったか、知っていますか?」と、自分の命が胎内ではじまった瞬間から話をスタートします。お母さんが妊娠に気づいたときの赤ちゃんの大きさは、お米一粒ほど。イメージしやすいように、ひとりひとりへ「お米粒と、小さな穴が開いた紙が入った小袋」を用意して配っています。このように命の始まりの大きさを感じてもらいながらストーリー形式で説明しています。

直井亜紀さん 

── 物語の主人公は“自分”なのですね。授業の堅苦しさを感じません。

 

直井さん:

「ふしぎだね」「どうしてだろうね」と考えながら進める授業にしています。例えば、羊水について話すときも、「お母さんのおなかにいるとき、みんなの体はとても小さくて、指一本がシャーペンの芯ぐらい。お母さんがもしも転んでその細い指が折れたりしないように、みんなの身体はクッションで覆われていました。そのクッションの別名は何だと思う?」と質問をしながら、初めて“羊水”という言葉を使うんです。はじめから「お母さんのおなかにいたときには羊水があって~」と知識として説明するよりも、想像が膨らむような伝え方を工夫しています。

 

「おなかの中でバナナくらいの大きさになったころ、お母さんはみんなが動くのを感じ始めました。そのときにお母さんはどう思っただろうね」と、胎動を感じた母親の気持ちに思いをはせるように問いかけたり。

 

── なんだかタイムスリップしたような感覚になりますね。

 

直井さん:

実際に、お母さんの胎内でどのように聴こえていたのかを想像できるように、子どもたちに耳をふさいでくぐもった音を体験してもらうこともあります。そして「元気に大きくなってねー。会える日が楽しみだよー」と呼びかけるんです。

直井亜紀さん

出産の説明をするときは、「生まれ方は二通りある」と、帝王切開のことも必ず伝えています。今は45人に1人が帝王切開で生まれていますから。

 

そして、出産の動画を見せた後に、「みなさんが誕生したとき、お父さんやお母さんはどんな顔をしてなんと言ってくれたでしょうね。元気に生まれてよかった、会いたかった、そんな言葉をかけてくれたでしょうね」と語りかけています。

家族の形やジェンダーは様々…言葉選びは慎重に

── 自分の命が迎えられたときのことをイメージするメッセージが伝わってきますね。いろんな背景を持つ子どものことも配慮して寄り添っていらっしゃるのですね。

 

直井さん:

家族の形はデリケートな部分なので、表現を慎重に配慮しています。たとえば、妊娠や出産までは「母親」「お母さん」と表現しますが、生まれてからは「大人」と表現するようにしています。

 

出産した母親が今のお母さんは同じではないかもしれないし、「お父さんとお母さんがいて当たり前」という刷り込みはしたくないですから。

 

── ジェンダーの問題については、どんなふうに伝えるのですか?

 

直井さん:

今の子どもたちは男女は平等だと思っているかもしれない。でも、世界各国の男女格差を示すジェンダーギャップ指数をみると、日本は153か国中、G7最下位の121位なんですよね。結婚したらどちらの名字にするか相談することなく男性側の名前になることが多いし、政治家など国のトップに女性がほとんどいないという現状がある。さらに、家事育児はいまだに女性が担うという風潮も根強いです。

 

だからこそ、“男だから、女だから”ではなく、“人として”尊重しあえる未来になってほしい。LGBTQなど多様な生き方も含め、性別で生きづらさを感じない社会になってほしい。そうした願いを込めて話しています。

 

… 

 

ただの知識ではない「いのちの授業」、受けてみたくなりました。次回は実際に授業を受けた子どもたちの声や変化について伺います。

 

Profile 直井亜紀さん

直井亜紀さん

一般社団法人べビケア推進協会代表理事。さら助産院院長。聖母女子短期大学助産学専攻科(現上智大学総合人間科学部)卒業。大学病院や総合病院に勤務した後、夫の転勤で各地を転々とした経験をもつ。2009年5月、さら助産院を開業。地域の新生児訪問などを含め、約5万人の育児相談に関わっている。平成29年には母子保健奨励賞、令和元年には内閣府特命担当大臣表彰を受賞。主な活動は、母乳育児相談、ベビマクラス、講演活動など。著書に「お母さんのための性教育入門」(実務教育出版)。

取材・文/西尾英子 撮影/河内 彩

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