普段飲んでいるコーヒーは本当に“おいしい”コーヒーですか?今回の特集では、普段よりも“もっとおいしい”コーヒーに出合うために知っておきたい知識を、3回に分けてご紹介します。
コーヒーとは身近なものでありながら、とても奥深い世界。そこで単一の豆からなる「シングルオリジン」にこだわるコーヒー専門店、「NOZY COFFEE」の岩田さんにいろいろとお話を伺いました。第1回目は「おいしいコーヒー豆の選び方」です。
おいしいコーヒーに出合うには
コーヒー豆は「シングルオリジン」だと、より好みを探りやすい
コーヒーと言えば、「ブレンド」という言葉が思い浮かぶ人も多いでしょう。大きく分けるとブレンドとは、異なる複数の産地の豆を混ぜたコーヒーのこと。一方で定義ははっきりと決まってはいないですが、「シングルオリジン」は生産国、生産地域、生産処理方法が明確で、それらが一切ブレンドされていないコーヒーのことです。
「自分好みのコーヒーを探るなら、シングルオリジンのコーヒーを飲んでみることをおすすめします」と岩田さん。
その理由は、“コーヒーのおいしさの鍵を握っているのは、やっぱりコーヒー豆そのものだから”だそう。だからこそ、豆の生産国・生産地域・生産処理方法などが明確で、またそれらが一切ブレンドされていないシングルオリジンのコーヒーは、自分の好みを探りやすいのだそうです。
「豆を挽いたら、すぐ飲む」これが一番美味しい
「おいしく飲むには、豆を挽いたら“すぐ飲む”が一番です!コーヒーは挽いた時点でどんどん酸化を始めてしまい、風味が落ちてしまいます」
豆が挽かれた粉の状態で売られているコーヒーも多いですが、おいしいコーヒーを飲むためには、できれば豆の状態で購入し、飲む直前に挽くといいそう。
「豆を挽けるグラインダーが家にあるといいのですが、お店で豆を選んでその場で挽いてもらっても、できるだけ早めに飲めばおいしいコーヒーを味わえます」
それでは、豆はどのように選べばよいのでしょうか。
コーヒー豆の選び方
「そのコーヒー豆についてどんな情報が記載されているかはお店によって異なります。NOZY COFFEEでは、豆の産地やキャラクターがこんなにあるということを知って楽しんでもらうために、豆の情報を基準に沿ってパッケージに記載しています」
コーヒー豆を選ぶ目安として、その基準を教えてもらいました。 ちなみに、この基準はNOZY COFFEEのものではあるものの、コーヒー専門店であれば表示されているものも。されていない場合でもスタッフに問い合わせると分かる場合もあるそうです。
選ぶ基準①「産地( REGION)」「農園(FARM)」
コーヒーは世界60カ国以上で作られています。産地ごとに、気候や土壌の条件にあった栽培方法・品種があり、味も大きく異なります。
「いろいろな要因はあるものの、スーパーなどで一般的に流通しているコーヒー豆は、国ごとにテイストの特徴が出やすい傾向があり
例えばブラジル産は、酸味が強くない、しっかりめのナッツ系やチョコレート系のテイスト。 エチオピアなどアフリカ系産は、フルーティーな酸味で華やかなテイスト。 インドネシア産は、オレンジ系や土系の香りを感じる …といった傾向があるとか。
コーヒーを数種試す場合は、産地別に味わってみるのも一つの方法です。
「もちろん、同じ国であっても農園や生産処理方法が違えば全く違う味になるケースは多々あります。好きな豆の産地名や農園名を覚えてもらえるのは私たちとしては嬉しい。次に同じ産地や農園のコーヒーに出会った時に今回はこんな違いがあった、こんなところが共通して好きだった、という基準にしていただくとより楽しいと思います」
選ぶ基準②「品種(VARIETY)」
コーヒー豆には、多くの品種が存在します。日本で流通しているコーヒー豆の品種は、大きく分けて、アラビカ種とカネフォラ種(ロブスタ種)の2種類。
アラビカ種は、コーヒー全体の65%を占めているといわれている品種。酸味が特徴的で風味豊かです。広く一般的に好まれる味わいを持ちますが、標高1000~2000mの熱帯高地で栽培されるため、栽培には大変な手間が掛かります。また、霜、乾燥、病害虫などにも弱いのが特徴で、栽培が難しい品種と言えます。
アラビカ種はその中でティピカ種、ブルボン種、カトゥーラ種…など、数多くの品種に分かれます。
「NOZY COFFEEでは、VARIETYという欄にコーヒー豆の種類を記載しています。同じ農園で品種違いで販売をすることもあります。他の要因も大きくワインほど品種による違いはないですが、味の違いにもコーヒー豆の品種が少しずつ影響しているので、気に入った豆があったら品種の名前を覚えておくのもいいかと思います」
選ぶ基準③「生産処理方法(PROCESSING)」
コーヒー豆を収穫して乾燥させる過程の処理方法はさまざまで、味に影響します。
「NOZY COFFEEのラベルにはこの部分もしっかりと記載しているので、選ぶときの参考にしてみてください。例えばコスタリカでは『ハニープロセス』という方法が多くみられます。これはコーヒーチェリーのミューシレージという粘液質のある部分を残したまま乾燥させる生産処理方法です。
『ハニープロセス』の中でも、ミューシレージを50%ほど残した『イエローハニー』、90%残した『レッドハニー』など、実際はさらに細かく分けられています。これらの違いも、好みを探る基準にしていただくとよいかと思います」
選ぶ基準④「標高(ALTITUDE)」
「NOZY COFFEEのラベルには、ALTITUDEという表記もあります。これは標高を指します。例えば私たちが毎年ご用意しているコスタ・リカのLA LIA(ラ リア)という農園のコーヒーも、今までに1,700mと1,900mのもので収穫された豆がありました。もちろん他の要因もありますが、同じ農園でも標高の違いで味わいが異なるのはシングルオリジンの楽しさのひとつと言えます」
選ぶ基準⑤「カップコメント(CUP COMMENT)」
「NOZY COFFEEでは、どのコーヒー豆に対しても必ず焙煎をした後にコーヒーの味を評価する『カッピング』という作業をします。その際の味のコメントを『カップコメント』として記載しています」
カップコメントには、美味しさを決める8つの項目があるそう。その基準について聞きました。
コーヒーの味を決める8つの項目
原産国でバイヤーがコーヒーを買い付けする際に、コーヒーのおいしさを決める「カッピング」が行われています。「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」という国ごとの、その年採れた中で最高のコーヒーを決める品評会でも、カッピングが行われております。項目ごとに点数がつけられ、最終的に87点以上のロットがその年のCOEの称号を手にします。
①クリーンカップ
透明感。コーヒーを飲んだときに感じるすっきり感のようなもので、雑味や違和感を感じない、飲んだときの心地よさを指す。
②スウィートネス
飲んだときに感じる「甘さ」の印象。
③アシディティ
飲んだときに感じる「酸味」の質。
④マウスフィール
口に含んだときのまるみやなめらかさ。「ベルベットのような」という言葉で表現されることもある。
⑤フレーバー
レッドアップル、ライム、アプリコット…などといった、口の中で感じる風味の印象。
⑥アフターテイスト
飲んだ後に感じる「後味」の印象。
⑦バランス
どれかの項目が突出していないか、全体にバランスがとれた味であるかどうか。
⑧オーバーオール
総合評価のこと。カッピングする個人の好みで採点ができる。
浅煎り?深煎り?
ロースト具合によっても味が変わる
同じ豆でも「ロースト」によって、その味はまた変わるそう。その傾向について聞きました。
「コーヒー豆はもともと薄いグリーンぽい色をしていますが、火をあてるほど。どんどん色が濃くなっていきます。いわゆるコーヒー色というものです。浅煎りであるほど茶色が薄く、深煎りになるほど茶色が濃い豆となります」
では、味の違いは…?
「品質の良い豆ほど焙煎の度合いによって質の良い酸味や香り、フレーバーが出ます。浅煎りの方が、酸味は感じやすい傾向にあると思います。しかしながら浅煎りでも、場合によっては酸味だけが吐出してしまい豆の持つキャラクターの良さをうまく表現できない場合もあります」
一方で品質によっては良い甘さやフレーバーなどが出ないものもあるので、そういったものに関しては例えばインスタントコーヒーなどでも多く見られますが、深煎りで苦味を出すものも多いそう。深煎りが好き、という方は、後味に苦味が強く残るものではなく、心地の良い甘さやまろやかさなどが残るもの、などを基準に選んでいただくと良いかと思います。
「NOZY COFFEEでは、焙煎機に生豆を投入して火力調整をし、基本的に中煎りのあたりまで焙煎をしています。生豆の状態は届いてからの経過時間でもコーヒーの味が変化します。なので、火の入り方や豆の特徴を考慮しながら一回一回の焙煎、全てをカッピング。日々その豆の持つキャラクターや良いところを引き出せるように調整しながら、ロースターは焙煎しています」
スターターとしてオススメの豆は?
NOZY COFFEEのオススメ
「現在弊社で販売しているものですと、コスタ・リカのラ コンチャ農園のコーヒーがおす
すめです。このオリジンのカップコメントは、『apple, well balance, smooth』。りんごのような優しい酸味とスムースな口当たりが特徴的なコーヒ
ーで、甘さや質感、酸味などがどれも強くは吐出しておらず、
非常にバランスの良いコーヒーです」
どのお店で選ぶいただく場合も、
まずはあまりフレーバーや酸の印象の個性が強すぎるものよりは、
このようなバランスの取れたコーヒーをお店の方などとも話し合っ
て探すのがいいそう!
「一言で『酸味』といっても、レモンやライムのように明るい酸味もあれば、リンゴとかブドウのようにやさしい酸味もあります。これ、おいしい!と感じたコーヒーのどんなところが好きだったのかや味の印象を書き留めておいて、できるだけ伝えてみるといいでしょう。NOZY COFFEEの場合は、ラベルをとっておいてもらえたら、それに近い味のものをご案内することが可能です」
スーパーで購入する場合は?
「もしスーパーなどで購入する場合は、こう言った産地情報などがないものがほとんどだと思うので、まずはこのコーヒーのこんなところが好きだな、というところを探して、例えば甘さの印象がいいもの、後味に嫌な苦味が残らないか、などを探ってみると良いですよ」
これだけお話を聞くだけでも、いろいろな要因がコーヒーの味を形作っているのがわかります。 「産地や生産処理方法が明確なものを味わっていくことで、コーヒーの味を見分ける感覚が鋭くなっていくはずですよ」
次回は「美味しいコーヒーの淹れ方を専門店に聞く【ドリップ&フレンチプレス】」をお伝えします。
NOZY COFFEE
コーヒー豆の生産国、生産地域、生産処理方法が明確で、またそれらが一切ブレンドされていない「シングルオリジンコーヒー」の専門店。オーナーである 能城政隆さんは、初めてシングルオリジンコーヒー飲んだ際に「こんなにおいしいコーヒーがあるんだ!」と驚き、日本ではまだ一般的ではなかったシングルオリジンコーヒーの魅力を広めたいという強い思いから、2010年にNOZY COFFEEをスタートさせた。焙煎は、現在原宿のTHE ROASTERY BY NOZY COFFEEで行なっている。
取材・文/松崎愛香 撮影/田尻陽子 取材協力/NOZY COFFEE