2018年6月から「#こどものいのちはこどものもの」として、児童虐待の被害をなくすための活動をしている、犬山紙子さんにインタビュー。「犬山紙子さん「大人として子どもを守れなかった不甲斐なさにみんなが傷ついている」に引き続き、共働き家庭やワンオペ育児などママに負担が多くある現状のなかで少しでも児童虐待を防ぐべく、私たちができることは何か?などをお伺いしました。
普段の生活のなかで、私たちができること。
相談ダイヤル「189(いちはやく)」の存在を知って
少しでも児童虐待を未然に防ぎたい…と思った時に、普段の生活の中で私たちが気をつけるべきことやできることって、身近にあったりするんでしょうか?
犬山さん:
そうですね、虐待の事件について友達と話し合う。それだけでも、それって一つの行動だと思うんです。そのとき、「そんなことするなんて…ヒドイよね」に留まらず、「なぜ、そういう結果になってしまったんだろう」「どうしたら、こういう事件が防げるんだろう」というところまで話すことができたら、もっといいのかもしれないです。 そして感じたことを「#こどものいのちはこどものもの」のハッシュタグとともに、つぶやいてみてください。それが、一つの力になります!
ニュースを聞くと、ママ友と話をすることはあります。でも、「ヒドイよね」で留まっていたかもしれないです…。確かに、「どうしたら防げるか」について話し合うことは、とても意義のあることですね。
犬山さん:
そうなんです。そして“ママ”ではない友達や知り合いとも、話をしてみてください。また違った立場での意見が聞かれることもあります。そして、虐待の問題は子どもを持つ親だけでなく、大人全体の問題として考えてみてほしいです。
虐待の問題について話し合い、まずは考えてみること。それなら、明日からでもできます。それ以外で、私たちが身近で気をつけられることや、何かできることって他にはあるんでしょうか。
犬山さん:
身近なことでもう一つできることは、まわりの子どもに目をかけることです。 そして知っておいてほしい知識が、児童相談所全国共通ダイヤルの番号「189(いちはやく)」。「あれ?虐待かも…」と感じたら、「いちはやく(189)」に電話で相談してみることも、虐待を防ぐことにつながるケースがあります。児童相談所に電話通報するということに対して、たぶんほとんどの人は躊躇すると思います。「ただの勘違いだったらどうしよう」と。でも、そこは心配しなくても大丈夫。相談を受けた児童相談所は、通報者の情報を漏洩することなくきちん調査や会議を重ねて、しかるべき対応をしてくれます。 「いちはやく(189)」の番号は、一人でも多くの大人に認知されるべきものです。この番号を、ツイッターやインスタグラムなどのSNSでつぶやいたり、友達と共有することも、一つの行動になると思います。
「いちはやく(189)」への電話相談で、虐待されている子どもを救えるキッカケになるかもしれない。絶対に覚えておくべき番号ですね。また、「まわりの子どもに目をかける」というのは、具体的にはどうすればよいと犬山さんは思われますか?
犬山さん:
例えば知っている子どもと接したときに、「あれ、この子家に帰りたがらないな」とか「あれ、ケガしてる?」とか。または沈んだ表情をしているなど、子どもからのサインって、何かしらあると思うんです。 子どもの様子に何かおかしな気配を感じたら、しばらくはセンサーを働かせてみたり、周りに相談してみるといいでしょう。園や学校の先生に伝えるという方法もあります。 学校の不手際が報道では取りざたされますが、これまで学校が適切な対応で児童相談所につなぎ、たくさんの子どもの命を救ってきていることも知っておかねばいけません。それでも不安ではあると思うので「なさらないとは思っていますが、念のため絶対にその子の親には言わないでください」と念押ししておくと、よいと思います。 また、小学校低学年以下の子どもが夕方外をふらついていたりなどを見かけたら、「いちはやく(189)」に電話をして、児童相談所に相談するのも一案です。子どもが家から締め出されているなどあまりにも緊急性が高いと感じた場合は、110番に連絡をしてもいいと私は思います。 いずれにせよ、この気づきを一人で解決しようとするのではなく、誰かの力を借りる形で解決していく方向にもっていくようにできればいいのかな、と思います。
「いちはやく(189)」への電話相談がハードルが高い…と感じたら、園や学校の先生にその子に関わる話をしてみてください。先生たちの働きかけで事態が動くこともあります。
子どももそうですが、あとは、大変そうな親御さんがいたら、歩み寄ることが発見につながることもあると思います。 虐待を未然に防ぐっていうのはなかなか容易なことではないのですが、私が思うには、「人の孤立」が、虐待を生む一因。その「孤立」を防ぐために、人に寄り添う姿勢が、じんわりとかもしれないですが、効果があるのかなと思います。 寄り添うとは、「大丈夫?」と声をかけてあげたり、「大変だったね」と共感を示したりすること。そのことが、心に傷を負った人を癒すことができる場合もあると思うんです。それがきっかけで、SOSを出してくれるかもしれません。
虐待をしてしまっている親は、外見じゃわからない場合も多いですよね?子どもに対して怒ることなんて、どんな親でもあることだと思いますし。判断が難しい部分もありますよね…。
犬山さん:
子どもへの怒り方に注目すると、もしかしたら分かりやすいのかもしれません。子どもに対して怒るのは、親として当たり前。子どもにイヤイヤされたら「もーーー!」って親御さんはなると思いますし。ただ注意したいのは、その怒り方が子どもの存在を否定するような場合。例えばですけど、「あんたなんて生まれてこなきゃよかった!」などと子どもに口ばしっている場面を見かけたら、少しセンサーを働かせるといいのかもしれないです。
だからといって、すべての子どもを自分がなんとかしてあげなきゃ!というのは当然難しい。だから、仲のいい友達の子どもとか、同じ園や学校でよく見かける子とか、近い立場の子どもたちを見守る姿勢でいいと思うんです。少しセンサーを働かせて、何かをキャッチしたらまず声をあげることです。
一人でも多くのお母さんを楽にしてあげたい
そんな思いで、私たちができること
共働き世帯が増えていくことや母親のワンオペ育児で「母親の孤立」を否定できない現状があると思います。そんななか、母親が追い詰められない社会にするには、どうしたらよいのでしょうか?
犬山さん:
私たちが変えられることとして、一番大きな力になるチャンスは、選挙です。いまは、しっかりと虐待も一つの政治的に取り組むべき問題として掲げられている時代なので、児童虐待やDV、そういったことに対してきちんと取り組んでいる議員さんを見て投票することが大事だと思います。
私たちが行政へアプローチできる一つの方法が、選挙。同じく、大きなアプローチとしては「こどもギフト」経由での寄付でしょうか?
犬山さん:
はい!先陣をきって親や子どもを救う活動をしてくださっている団体に寄付をすることで、効率よく一つでも虐待を少なくすることにつながると思います。 寄付は、別に「こどもギフト」経由じゃなくても、もちろんいいと思います。そういった団体はたいてい寄付窓口を設けていますので、ご自身で調べてみてもいいかもしれません。 一度寄付すると「寄付する」っていうことに対してのハードルが、ぐっと下がるんです。そして、「寄付した」という事実を、ぜひ友達に広めてください。また、寄付した友達のことを耳にしたら「寄付したこと自慢してる?」ではなく、「あの人も寄付しているのなら、それなら私も」と思うようにする。そうやって、良い連鎖になればいいと思うんですよね。署名活動などが行われている場合も、どんどん参加していただいたらいいと思います。
最後に…犬山さんの思いを教えてください。
犬山さん:
親御さんの負担が減って、少しでも楽しく子育てができるようになる世の中になるべきです。そして親だけでなく大人全員で、子どもを守っていかなければいけません。児童虐待は、絶対になくすべきものだと思っています。
私たちにできることは、身近にいる子どもや親御さんたちに異変を感じたらセンサーを働かせ、「いちはやく(189)」にダイヤルすること。「いちはやく(189)」は、「子育てが辛くてつい子どもにあたってしまう…」ともし自身が悩んでいる場合でも、相談に乗ってくれます。一方で、選挙や寄付などで大きな力を動かす連鎖を作ることも、違ったアプローチとしてはすごく大切なこと、と語る犬山さん。虐待のニュースは、もう聞きたくない。私たち一人ひとりができることに意識を向けてみると、変わることもあるはずです。
取材・文/松崎愛香 撮影/斉藤純平