「育児をしていて、まったくストレスを感じない。」
そんな人はほとんどいないと思いますが、そのストレスやイライラが限界を超えると、体や心にさまざまな症状が出始めることがあります。
「ノイローゼ」というと、なんとなく「考えすぎ」「気に病みすぎ」というやや軽いイメージを持たれがちですが、「育児ノイローゼ」は戦後の核家族化が進んだ50年以上前から存在する呼び名で、心療内科などで心身の症状が認められれば保険診療の対象にもなります。
今回は、「もしかして私、育児ノイローゼ?」と不安になっているママのために、育児ノイローゼで見られる症状や原因だと考えられていること、改善のためにできることなどを考えていきます。
※なお、本記事は医療機関や政府機関が公開した情報に基づき作成していますが、個人の症状についての判断を保証するものではありません。ご自身の症状についての診断は医療機関への受診をおすすめします。
目次
「育児ノイローゼ」のよくある症状
「育児ノイローゼ」は、育児のストレスや心身の負担により生活に支障をきたすような症状があらわれることをいい、出産・育児の関係者や医療機関でも広く使われている用語ではありますが、医学的な正式名称ではなく通称です。
そのため、症状や程度に「これが育児ノイローゼだ」という一定の基準があるわけではないのですが、一般的には次のような症状を訴える人が多いとされています。
育児ノイローゼによくある症状は次のようなもの。
- イライラ
- 頭痛
- 過食
- 無気力
- 眠れない
- 涙もろくなる
- 子どもがかわいいと思えない
- この先の育児に自信がなくなる
- この子を産まなければよかったと思う
- 子どもを叱りすぎてしまう など
保育園・幼稚園・在宅の子どもを育児中のママ345人を対象に実施された立命館大学産業社会学部のアンケート結果によると、
「子育てに疲れたと感じることは?」
という質問に対し、「よくある」「時々ある」と答えた人は8割以上。
また、
「子どもといるとイライラすることは?」
にも7割近い人が「よくある」「時々ある」と答えていて、これらがすべて育児ノイローゼに結びついているわけではないとはいえ、非常に高い割合であると分かります。
単なる育児ストレスや、マタニティブルー・産後うつとは違う?
上記のアンケート結果からもわかるように、育児にストレスを感じている人はとても多いですが、誰にでもある育児ストレスというレベルと、育児ノイローゼ(神経症)といわれるレベルには、医学上の明確な区分はなく、症状の程度や日常生活への影響の大きさなどから段階的に判断されるそうです。
いっぽう、ホルモン変化の影響などで産後1週間頃から出現することの多い「マタニティブルー」や、退院後~産後半年頃に出現しやすい「産後うつ」と、「育児ノイローゼ」とは、あらわれる症状には重なる部分もありますが、発症のしくみや有効な対処法・治療法が違います。
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しかし、「育児ノイローゼ」と「マタニティブルー」「産後うつ」の見極めは、ママ自身はもちろん一般の人にはかなり難しく、医療機関に相談するのが確実といえるでしょう。
【2歳・3歳】育児ノイローゼの原因は、子どもの年齢によって違う?
「私、育児ノイローゼかも…」と悩むママにとって、その原因は子どもの年齢ごとに異なると考えられています。
0~1歳児のママに多い「育児ノイローゼ」の原因
出産後は、体調やホルモンバランスの変化が続く中で、今までとは180度違った生活が始まります。
特に初めての出産のときは、母乳が足りているのか、赤ちゃんがなぜ泣いているのかなど分からないことだらけの中、「母親だから」という理由で1人で乗り切ることを求められます。
夜泣きなどによる肉体的な疲れと、赤ちゃん優先で自分のペースで家事が進められないといった精神的ストレスが重なり、今後の育児に自信をなくしたり、「自分には子どもを産むことなんて無理だった」と感じたりすることが多いといわれています。
2歳児のママに多い「育児ノイローゼ」の原因
2歳前後から始まるイヤイヤ期。なんでも自分でしたいのに、うまくできずにかんしゃくを起こしたり、動きもますます活発になる年頃なので家事も思うように進まず、赤ちゃん時代とはまた違ったストレスがたまりがちな時期といえます。
また、専業主婦のママに特に多いのが、子どもはもちろんかわいいけれどまだ話し相手にはならないし、子育てを誰かに評価されることもほめられることもない…という特有のつらさが原因となることもあります。
3歳児のママに多い「育児ノイローゼ」の原因
子どもが3歳頃には第2子を妊娠・出産するママも多く、肉体的な育児の負担増に加え、上の子が赤ちゃん返りするなどのストレスもかかります。
また3歳頃からは、保育園や幼稚園で他の子と比べてやんちゃ・聞きわけがない・発達が遅いような気がする…などの個人差が気になる時期でもあり、そのために子どもを叱りすぎてしまったり、かわいく思えなかったり、「子育てに失敗した」「私は母親失格」などと感じてしまうママも出てきます。
どうすればいい?「育児ノイローゼ」の解決方法
内閣府の全国調査結果をみると、子育ての負担感が大きいと感じているのは専業主婦が45.3%にたいし兼業主婦が29.1%と、育児で苦しむ母親にとって「孤立・孤独」は大きな原因の1つと考えられています。
「1人で悩まない」「1人で抱え込まない」ことがやはり一番の解決方法だといえるでしょう。
しかし、上のような悩みや苦しい状況を抱えていても、なかなか誰にも話せない…という人は多いと思われます。
家族や友人が共感的に話を聞いてくれることで、かなりストレスや辛さは軽減されるはずですが、
悩みを軽くしようと「よくあること、大丈夫」と言われたり、反対に「子どもが1人しかいないのに、何が大変なの?」「子ども可愛いのに、なぜ?」などと返ってきて余計に自分を責めたり、理解してもらえずに落ち込んでしまったというママもいます。
身近な相手に相談できない場合は第三者の手助けを探してみましょう。
自治体には子育て支援の窓口があり、状況を相談すれば、保健師やカウンセラー、医療機関と連携して適切な支援が得られます。なかなか役所に行けなくても、電話相談はもちろん、最近ではLINEで相談できる自治体もあるそうです。
また、ママ側だけでなく子どもの発達に何らかの課題があり、親だけの力ではどうにもならずに絶望し疲れ切ってしまっているケースもあるといいます。
このような場合も、心理士や療育の専門家の力を借りて適切な接し方をすると、改善することが十分期待できますので、思いきって相談してみるのがおすすめです。
「育児ノイローゼ」のまとめ
「育児ノイローゼ」になりやすいのは、まじめで完璧主義のママが多いとよくいわれます。
しかし、今回のデータなどを見ると、周囲の環境や子どもの手のかかり具合など、育児ノイローゼにつながる原因はさまざま。ママの性格に関わらず、誰に起こってもおかしくないことだといえるでしょう。
育児ストレスは誰にでもあり、大変な時期は永遠に続かないのも事実ですが、それが頭でわかっていても心や体がついてこられないと感じた時が、助けを求めるべきタイミングかもしれません。
繰り返しますが、この記事はあくまでも参考に、おかしいと思ったら、少しでも早く専門家に相談することが何より大切です。
文/高谷みえこ
参考:立命館大学 2004年研究ノート「今日の子育て不安・子育て支援を考える 」 https://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_07/075-86sakuradani.pdf
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会「メンタルヘルスケアが必要な妊産婦は4万人 育児不安や虐待の原因に」 http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2016/009116.php
あいち小児保健医療総合センター「社会的ハイリスク妊娠の支援によって児童虐待・妊産婦自殺を防ぐ」 http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/11/1e781e633e5429a50f87d169bda5d558.pdf