今回は列車の顔、種別・行先表示器を紹介します。種別・行先表示器とは列車の前面や側面にある種別や行先を表示する機械のこと。都市部ですと種別も表示されることから種別表示器、行先表示器と分けて書かれることもあります。ややこしいので、ここでは種別表示器もまとめて「種別・行先表示器」とします。それでは種別・行先表示器の登場前から見ていくことにしましょう。

列車の種別・行先表示器とは?

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昭和の時代は看板が主流だった

種別・行先表示器の歴史は意外と新しく、通勤電車に導入されたのは昭和中頃から末期にかけて。それまでは行先や種別を記した看板が列車の前面に掲げられていました。鉄道会社により、さまざまなデザインが施された看板が見られたものです。

 

たとえば、阪急電鉄では特急や急行などの優等列車は丸型、普通列車は四角の看板を用いていました。特に急行は真ん中に大きく「急」と書かれたもの。遠目からでも急行が来ることがわかり、とても存在感がありました。 少しユニークな看板を採用していたのが京成電鉄です。

 

京成電鉄では行先を記した看板の形は四角で統一されていましたが、デザインが行先によって異なっていました。看板の下地は赤色(昔は緑色)を採用し、行先により白色でさまざまな図形が描かれました。たとえば、上野行は三角、成田空港行は細長、成田行は丸という具合です。そして白色に塗られたところに「上野」と黒字で書かれていたのです。さらに京成の看板はパラパラマンガのような仕掛けが。

 

たとえば「上野」と書かれた看板の上半分を下にめくると「青砥」に変身。これですと、看板をつくる枚数が節約できます。 行先表示器の導入により看板は少なくなりました。現在のところ、大手私鉄で車両の前面に行先を記した看板を掲げている会社はありません。

行先表示器のパイオニア、方向幕

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看板は手動で付け外しする必要があったので、行先表示器が導入されました。行先表示器の最初のテクノロジーは方向幕です。方向幕は細長の幕になっており、専用の機械を使って前面や側面の窓枠に幕を表示させます。かつては手動で幕を動かしたので、微妙に窓枠とズレていることも。現在は機械を用いているので、窓枠ピッタリに表示できます。

 

方向幕も鉄道会社によって、さまざまな装飾が施されています。大手私鉄では種別ごとに方向幕の色を変えるのが一般的なようです。京王の種別方向幕の色は以下のとおりです。

 

普通:黒色 快速:青色 急行:緑色 準特急:朱色 特急:赤色

 

いろいろな色が使われていますが、なぜか普通:黒色、特急:赤色という組み合わせは一般的なようです。 なお方向幕や看板は鉄道会社のイベントで販売されています。それほど値段は高くないので、気になる人は購入してはいかが。

行先表示器は次のステージへ、単色LED

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長らく種別・行先表示器は方向幕の天下が続いていましたが、平成に入りLED種別・行先表示器が導入されました。LEDの長所はダイヤが変わる度に幕を制作しないで済むこと。新しい行先が導入されても、簡単に設定できます。

 

初期のLEDはオレンジのような単色でした。単色なので行先を表示するなら問題はありませんが、色を使い分ける種別表示器には不向きでした。そのため、JR西日本のように行先は単色LED、種別は方向幕と器用に使い分ける鉄道会社も。また太陽がLED表示器に当たると見えにくい、という欠点もありました。そのせいか、私の身の回りでは単色LEDの評判はそれほどよくありませんでした。

現在の行先表示器のスタンダードは、多色LED

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あまり評判がよくなかったLEDも進化を遂げました。現在は多色LEDを採用し、カラフルにくっきりと文字が表示されるようになりました。そのため、種別表示器にも多色LEDの導入が進んでいます。また側面のLED表示器には行先だけでなく、次の停車駅を表示するものも。単に表示形式が変わっただけでなく、情報量も増えています。

 

一方、方向幕は多色LEDに押される形で急激に姿を消しており、関東大手私鉄では方向幕を使った車両が劇的に少なくなっています。 欠点が見当たらない多色LEDですが、方向幕と比べると細かなデザインは不向きなように感じられます。LED表示器は便利ですが、方向幕や看板といったアナログなものを懐かしく思うのは私だけでしょうか。

LED行先表示器を撮影する上での注意点

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LED行先表示器を撮影するときはカメラのスピードシャッターに注意してください。スピードシャッター200分の1以上にすると、文字が途切れているように表示されます。LEDは高速で点滅するため。したがって、LEDの点滅スピードよりも早いシャッタスピードを利用すると文字が途切れます。これが鉄道カメラマンも悩ますわけです。

 

走っている車両を美しく撮るにはスピードシャッターを200分の1以上にしなければなりません。走行中の写真を美しく撮るか、LED表示器の文字をきちんと表示させるか。いわば究極の選択です。

 

文・撮影/新田浩之