前回の「志麻さんの記憶に残るトマトのレシピ公開!」では『伝説の家政婦が教える 魔法の作りおき』(主婦と生活社刊)の出版当時の思い出や、思い入れのあるトマトサラダのレシピをうかがいました。

 

パッと材料を見て、十数品を瞬く間に仕上げる様子がテレビでも話題の志麻さん。その技術の根底には、連日満席だったという人気フレンチレストランでの厳しい修行時代があってのこと。そんな志麻さんが、なぜ料理人から家政婦へ転身したのか。志麻さんの生き方について聞いてみました。

志麻さんの料理人時代
すべてを仕事につぎ込むがむしゃらな毎日

── 人気レストランで料理人として働いていた当時は、どんな暮らしだったんですか?

 

志麻さん:早朝から深夜まで、とにかくがむしゃらに働いていました。休日もフランス語を習いに行ったり、フレンチレストランを食べ歩いたり。時間もお金も、すべてフランス文化を学ぶために費やしていました。そう、「がむしゃら」という言葉がピッタリでしたね。

 

志麻さん

当時のお店が好きすぎて…やる気のない料理人は雇いたくないから、と自分で仕事を抱えこみ、日々、奮闘。今思うと、熱心すぎたんです。

 

── とても充実していたんですね。

 

志麻さん:はい。ただ…目標を持つことはできていなかったんです。 長くフランス料理の世界にいれば、多くの人に顔を覚えてもらえます。私が日夜がんばっているのは、いつか独立してお店を持ちたいからなのだろうと周囲からは思われていたことでしょう。だけど、そんな期待をされればされるほど…お店を持つことがやりたいことなのか疑問が沸くようになっていました。しかし、仕事の仕方が変えられず、自分自身の殻を破ることはできない日々が続きました。

 

1800509_0299
▲フランスで修行していた当時の写真。 志麻さんの自宅にはこのころに読んでいたフレンチの参考書がたくさん並んでいる。

ある日、レストランを辞め料理人から家政婦の道を選んだワケ
家庭で楽しめるフランス料理を広めたかった

── でも目標が見えなかったとはいえ、充実していた料理人をやめ、家事代行の仕事を選ぶというのは思いきった決断ですね。どんなきっかけだったんですか?

 

志麻さん:お店には毎晩、ワイン片手に通な会話を楽しむ大人ばかり。でも、私がフレンチに惚れこんだ忘れられない味は、野菜をじっくり煮ただけの素朴な野菜スープや、シンプルなバターソースをまとった魚のソテー。ぜひ、家族みんなで食べて欲しい家庭料理でした。誰にでも、気軽に食べられるフランスの味を伝えたいのに…。そんな思いがどんどん膨らんでいき、思いきってお店を辞めたんです。

 

佐藤 真のパリっ子の食卓―四季の味90皿
▲調理師専門学校時代から集めている、食文化の本の中。 なかでもおすすめは『佐藤 真のパリっ子の食卓―四季の味90皿』(河出書房新社刊)。 「エッセイとレシピが合わさったクッキングノート。パリの人々が普通に自宅で食べているシンプルな料理が作れます」

 

志麻さん:でも、一度立ち止まったからこそ今があります。フランスへ行くべきではないのか、お店を持つ以外にフランス料理を広めることはできないのか。そう悩み続けるよりも、自分の気持ちに正直に、やりたいことをやろうと。今思えば、思い切ってレストランを辞めるという決断をしてみてよかったです。

 

そして飲食店でアルバイトをしながら自分の進むべき道を見つけようとするうちに、結婚という大きな転機も迎えました。家庭を持ってもフランスの家庭料理を広めるために「できること」を真剣に考えましたね。その結果が、家事代行マッチングサービス・タスカジとの出会いです。

 

── 一度、料理人の肩書きを捨ててできた時間は、これからの生き方に向き合うための貴重な時間になったのですね。

 

志麻さん:いつお店を出すのか、と期待されていた自分が、家政婦をする。最初は自分でもそのギャップに苦しむかもしれないと想像していました。ところが、実際に伺った家庭で料理をしてみると…、子どもたちが味見してくれたり、前回の作りおきの感想を話してくれたり。料理を待ってくれている人の顔が見えることが新鮮で嬉しかった! 「私がやりたかったのは、これだ!」と気づいたんです。目標をつかみはじめた瞬間でした。

働くママを支える料理人として生きる
大勢ではなく一人ひとりのための料理

── 家政婦の仕事を始めて、いちばん変わったことって何ですか?

 

志麻さん:一人ひとりを想って料理できること。これがいちばん違います。 以前は、お店に足を運んでくださる、たくさんのお客様のために料理をしていました。今は、伺ったお宅のご家族のためだけに料理をしています。私の作りおきを楽しみにしてくれるお子さんとお話できたり、運動会のお弁当に入れるおかずをリクエストしてもらったり。その暮らしに寄り添いながら、言い換えれば、“ママの代わり”に料理をしている。家で自分の家族にご飯を作るときと変わらない想いで料理しているんです。

 

そこには、以前のように「いつ独立して店を持つの?」と期待されて戸惑う自分ではなく、主婦であり、ママであり、ただただフランスの家庭料理が好きな私がいます。 今がいちばん、自分の人生を生きている!と感じています。

 

志麻さん

 

── 志麻さんが来てくれたら、家族の食事が変わりますね。

 

志麻さん:便利な時代だから、お総菜を買ってきてテーブルに並べればお腹は満たせます。でも、やっぱり手作りのあたたかさってあると思うんです。サザエさんやちびまる子ちゃんなどのアニメに描かれた、だんらんの風景が少なくなってきていると思いませんか。

 

フランスでは昔も今も、裕福な人もそう出ない人も、忙しいときもそうでないときも、いつも“家族と食卓を囲む時間”が大切にされています。ママが忙しくて作れないなら、私がかわりに作って、そんなフランスの食文化ごと広めたいと思うんです。それが働くママを支えられていることにも繋がるのはとても嬉しいこと。冷蔵庫に貼ってある学校給食の献立表を見ながら、偏らないように献立を組んだり、子どもたちのリクエストに応えたり、家族を思うように料理するって本当に楽しい。

 

また、気軽に作れるフランス家庭料理のレシピを広めていくことで、1品だけでも手作りしたいと思ってもらえたら嬉しいですね。例え、お惣菜が並んだとしても、作業はほとんど切るだけのトマトサラダなど簡単なレシピを1品添えて、家族との食事の時間を楽しんでほしい。これは、昨年第一子を出産し、改めて感じていることでもあります。

伝説の家政婦・志麻さんの自宅を訪ねて

志麻さんの特集TOPに戻る

 

Profile 志麻さん

連日満席のフレンチレストランやフレンチビストロで約15年間、料理人として腕をふるう。2016年に家事代行マッチングサービス・タスカジに登録すると「レストランの味が家で食べられる!」と予約殺到。家にある材料で作る、フレンチメインの作りおきおかずが評判となり、テレビや雑誌に多数出演。それぞれの家庭のライフスタイルに合わせて、好みの味に仕上げてくれる。

志麻さんも登場するレシピ本『伝説の家政婦が教える 魔法の作りおき』(主婦と生活社刊)については、コチラもご覧ください。

取材・文/さくまえり 撮影/中垣美沙