夏休み明け前後に、子どもの自殺件数や不登校の件数が増えることを、「9月1日問題」と呼ぶのをご存知ですか。2015年には鎌倉市立図書館が夏休み明け間近に投稿した「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」というツイートも話題になりました。
「9月1日問題」の主な原因は「いじめ」だと言われていますが、インターネットが発達などによって、最近のいじめは大人の目に映りにくくなっています。 だからこそ、私たちは子どもの発する微弱な「SOS」に気づかなくてはいけません。
子どもの命を守るために、親として何をすればいいのか。
長年、報道記者として教育現場を取材をし、『いじめで死なせない 子どもの命を救う大人の気づきと言葉』の著書である岸田雪子さんに話を聞きました。
教えてくれたのは…
岸田雪子さん
早稲田大学法学部を卒業後、日本テレビに入社。報道記者歴10年を経て、報道キャスタ―に。現在は報道局解説委員として、文部科学省記者クラブを担当。育児中の日本テレビ社員らで作る子育て支援プロジェクト「ママモコモ」でも活躍する。
子どもはいじめられていることを話さない
グループ内での仲間外れや、インターネット・SNS上での暴言など、近年のいじめは大人の目から見えにくくなっています。
「何かつらいことがあれば子どもが自ら話してくれると思うかもしれませんが、いじめに遭った子どもたちは、その事実を親に話そうとはしないものです。これは、普段からしっかりコミュニケーションを取れている親子であってもあてはまります」(岸田さん)
大人が会社で起きた嫌なことやつらいことを大好きな子どもに話さないのと同様に、子どもも親に心配をかけまいと口を閉ざしてしまう傾向にあります。
そのため、私たちは「子どもは自分から話してくれない」という前提に立ち、小さな変化を注意深く見つめる必要があるのです。
いじめのSOSを見抜く4つのサイン
子どもたちはいじめられていることを語らない一方で、小さなSOSを発しています。 日常生活の中に現れるサインについて、特に気をつけたいのは以下の4つです。
①いままで仲良くしていた友達との付き合いが疎遠になる
いじめは友達関係から始まりやすい。交友関係が変わったときには注意を。話を聞くときは、「休み時間にはどんなことをして遊んだの?」などと具体的に聞くと、子どもも話しやすい。
②服や筆箱などの持ち物が不自然に汚れていたり、壊れていたりする
学校に着ていく服や持ち物は、いじめられているサインが出やすいもの。気をつけたいのが、男の子の場合。いじめとは関係なく、友達同士で遊んでいて汚したり壊したりしてしまうことも多いので、まずは理由を聞いてみる。答えなかったり、説明が不自然だったら要注意。
③朝や休み明けに学校に行きたがらない
学校に対する恐怖心が強いと、腹痛や頭痛など、体に症状が出ることも。特に月曜日など、休み明けの朝は顕著。体調不良を理由に登校を渋ることが続く場合は、いじめなどの問題が起きている可能性が高い。
④スマホを常にチェックしている、もしくは極端に見るのを嫌がる
見えにくい「ネットいじめ」は、インターネットの使い方に目配りを。スマホを肌身離さず持ち歩きチェックしていたり、逆に極端に利用を避けているときは、何か起きていると考えたほうがいい。
それでは、子どもがいじめられていることに気づいたときには、どうすればいいのでしょう?
いじめに気づいたときにかけたい言葉
親として、子どもがいじめられていることを知ったらすぐにでも行動を起こしたいところですが、いじめの当事者は子どもです。
先回りして結論を出したり行動を起こしたりせず、まずは次のような言葉を投げかけて、冷静な“聞き役”に徹しましょう。
①「何があったの?」
子どもに打ち明けられるより先にいじめに気づいたとしても「いじめられているんでしょう?」「それはいじめじゃないと思う」など結論づけてしまうのは避ける。まずは、子どもが自分から話しやすいような投げかけを。
②「そのとき、どういう気持ちになった?」
例え、大人からすれば些細なことに思えるような場合でも、「そんなに思いつめる必要ないよ」「それはあなたの考えすぎ」などと結論づけない。子ども自身の言葉で気持ちを聞き、そのうえで「とてもつらかったね」などと共感の言葉をかけ、寄り添ってあげる。
③「どうしてほしい?」「どうしたい?」
「すぐに学校に言おう」「〇〇ちゃんのお母さんに今すぐ電話する」など、つい行動を起こしたくなるかもしれないが、当事者は子ども。感情的に動くのではなく、子どもの意思を確認し、大人はそれをサポートするという形に。
④「話してくれてありがとう。必ず助けるよ。味方だからね」
いじめられていることを親に話すということは、子どもにとって非常に勇気がいること。いじめについて打ち明けてくれたら、まずは話してくれたことに感謝し、その勇気を褒める。さらに、自分が味方であることをしっかりと伝える。
絶対に言ってはいけない「学校に行ったら?」
いじめを受けた子は、人格攻撃をされ続け、自尊心が非常に傷ついた状態です。
「子どもの将来のことを考えて言ったつもりの『学校に行ったら?』は、親が思っている以上に子どもを追いつめてしまいます。まずは、傷を癒やすことに専念し、その後のことは子どもの回復を待ってから考えましょう。何よりもまず守らなければならないのは、子どもの命です」(岸田さん)
大人の気づきと言葉によって、子どもの命は救えます。 新学期が始まった今だからこそ、改めて子どもと向き合い、SOSを出していないか注意深く見守りましょう。
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「いじめサバイバー」の言葉から、加害者側の心理、子どものSOSに 気づくためのきっかけと親も実践できるカウンセリングマインドまで。 記者・キャスターとして長く教育問題に取り組み続けてきた 岸田雪子さんによる、書き下ろしノンフィクション作品。