過保護な夫のイメージイラスト

子どもを育てるには心配が尽きない社会的状況があります。ふと目を離したら連れ去られるかもしれないし、路上で誰かに襲われるかもしれません。どんなに対策を講じてもたりないと感じても不思議ではありません。

職場に電話してくる夫「妊娠中の妻に残業させないで」

「うちの夫は本当に心配性なんです。子どもに対して過干渉になりかけていて、上の子は反発しています。

 

子どもの自立と親の心配、どこで折り合いをつければいいのか私も日々、考えてしまいますね」

 

そう話すのはジュンコさん(45歳、仮名=以下同)です。2歳年上の夫と結婚して15年。長女は14歳、長男は12歳。多感な子どもたちと夫との攻防が増えてきました。

 

「つきあっているとき、夫は遅くならないうちに私を家まで必ず送ってくれました。いい人だなと思っていましたが、結婚したらそれが若干、うっとうしく感じたのも事実。

 

特に妊娠してからは毎日、何回も携帯にメールしてきて『転ばないように』『体を冷やさないように』って。

 

当時は私もまだフルタイムで働いていたので、返事できないことも。そうすると電話がかかってくる。残業時は私の上司に連絡してきて、妊婦だから残業させないでほしい、と。恥ずかしかったですね

 

妻だろうと妊婦だろうと、大人の女性。自分の判断でできることとできないことは決めると夫に食ってかかったこともあるそうです。 

徒歩5分のスイミングさえ不安がつきない夫

そんな夫の心配癖は、出産後は子どもに向けられるようになりました。

 

「こんなに小さくて育つのかな、大丈夫かな、と毎日、不安がっていましたね。母乳が出にくいときは夫が必死にマッサージをしようとするので、それがストレスになりました。

 

心配がありがた迷惑になる。義母から言ってもらったこともありますが、『家族を守るのがオレの務めだ』と自分の母親に怒っていました」

 

産後、ジュンコさんは退職。下の子が小学校に上がったころから、今度はパートとして働き始めました。

 

子どもが下校するまでの短時間ですが、パートに出るようになって社会と接点がもてたので少し解放されたような気持ちになったといいます。

 

ところが子どもたちが自分の意志で習い事などを始めるようになると、夫の「心配性」はエスカレート。習い事の送り迎えを全部してほしい、とジュンコさんに言ったのです。

 

「息子が通うスイミングなんて、家から徒歩5分ですよ。しかも同じマンションの同級生と一緒に通っている。

 

でも夫は『運悪く、うちの子だけ車でさらわれたらどうする?』と。『そうなったらジュンコの責任だよ』と目を潤ませて言うので、しかたなく子どもの送り迎えをしました。

 

そのために、パートも週3日くらいしかできなくなって」

 

長女をピアノ教室に送り届け、いったん家に戻って息子のスイミング、その後、長女を迎えに行って、夕食の買い物をして帰り、今度は長女を連れて長男の迎えに。

2の娘と夫の大バトルに妻がこうじた作戦

「長女は中学2年生。友だちと遊びに行きたい年齢ですけど、夫は大反対。週末の昼間ならいいと私は思ったけど、『だったら、オレも行く』と夫。

 

長女は、夫とほとんど口をきかなくなりました。それはそれで夫も寂しいみたいで、私にどうにかしてとせっついてくる。

 

そんなことを言っても、嫌われるほど束縛しているのは夫ですからね」

 

つい先日、ジュンコさんは長女と話し合い、夫の妹を引きずり込んでひと芝居打ちました。義妹が長女を原宿に連れていくということにしたのです。

 

「義妹も前から、兄(ジュンコさんの夫)が過保護、過干渉すぎると思っていたそう。だから義妹に来てもらって、駅で娘の友だちと合流。

 

義妹はひとりで自分の用事をすませ、夕方、駅で娘と会って家まで連れて帰ってくる、と。娘は大喜びで出かけていきました。

 

あとから聞いたら、友だちと一緒に原宿に行ったのが本当に楽しかったみたい。

 

『誰かに声をかけられても、立ち止まってはいけないという叔母さんの言いつけを守ったよ』とも言っていましたね。そうやって自衛することを学ぶのも大事なことかもしれません」

 

夫もいずれ、子どもには子どもの意志があり、それを大事にしなければいけないとわかる日が来るはずとジュンコさんは信じています。

 

ただ、それまではときどき夫の目をかすめて、子どもたちに自由を与えるつもりだそう。そうしなければ親子関係、ひいては家族関係が危うくなりそうだからと言います。

 

心配や干渉はときとして支配になりがちです。つねに子どもたちに逃げ場を用意してやりたいとジュンコさんは真顔でつぶやきました。

過保護な夫のイメージイラスト
娘と言い合いになる夫のイメージイラスト
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。